戦況は上々。時機に秀吉様の勝ちが決まるだろう。
「して、侑哉は何処へ行ったのか」
「刑部。黙れ」
「ひひっ、すまぬ。主がそれほど焦るとはな」
不気味に笑う刑部に時間を割くのは止めた。 秀吉様の勝ちだと言うのに。
「皆邪魔だ、云ね」
死屍累々の地を駆ける。 乱戦の中、己の腹心を見失うとは秀吉様に顔向けができん。
「やれ、あそこ。猫が居る」
「ちっ」
前方に敵と対峙する侑哉が見える。 敵が一歩踏み込むと侑哉の肩から鮮血が噴き出すが、次の瞬間には敵がただの肉塊になる。
気が付けば、私は刀を抜いていた。
「なんだ、その無様な様は」
地に伏せた侑哉の顔に抜き身の刃を立てる。 私が切った場所からも血が流れ出す。 それでも、憤りが消えない。
「誰が、そのような様を見せろと言った?」
「……」
「答えろ侑哉」
「ぐはっ」
憤りに任せて肩口を踏みつける。 痛みに顔を歪め呻く侑哉に怒りがさらに増す。 呻くだけの侑哉に答えを諭そうとする。
「答えろ、侑哉」
「……」
「…そやつ、本当に事切れるぞ?」
刑部がくつくつと笑う。 地に伏した侑哉を見れば、白い戦装束が赤黒く染まっていた。
「主が、侑哉を喪いたいというなら何も言わぬがな」
「…帰るぞ」
「あぁ…」
気を失った侑哉担ぎ陣へと戻った。
勝ち戦を挙げた豊臣軍は城へ戻ると、祝い事に興じる。 騒がしい騒ぎは好かないと私は部屋へ戻った。
部屋には刑部よろしく、止血の布を何重にも巻かれた侑哉がいた。 気持ちよさそうに眠っている侑哉にまた怒りを覚える。 言いたいことも、聞きたいことも多くある。
「何故貴様は私から離れる?」
恨み言のように呟き、光の当たらない部屋の奥に身を寄せた。
それから、1日過ぎ。気が付けば朝。 ごそごそと侑哉の布団の布ずれの音が聞こえた。
「ん…」
「起きたか」
部屋の奥から声を掛けると、侑哉は自由の利く首だけをこちらに向ける。
「…三成」
「貴様がその様に軟弱とは思っていなかった」
ゆっくりと立ち上がり床へと向かう。 嫌味だと言うのに笑う侑哉に問いかける。
「何を笑うことがある?」
「いや、心配かけたなと」
へらへらとした笑みに呆れる。何も言うことがなくなる。
「別に貴様にこれと言って思い入れはない」
「ん…で俺はどれくらい寝た?」
「…精々2日といったところか」
「悪かったな三成」
「何に対しての謝罪だ?」
「何がいいの?死にかけたこと?」
「そんなことは望まない」
謝罪で足りると思っているのかこの男は。 死をもって償うなどという殊勝な言葉は望めないのもわかっている。 視線を逸らせば自由の利く手が私の顔に触れた。
「ごめんな三成。俺はお前のものなのにな」
「…ふんっ」
「三成。好きだよ」
愛を痛みに変えて
「三成に傷つけられるのが一番うれしい」
「戯言を」
2011/06/14 16:31
⇒後書き
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