飛び散る血飛沫に視界が開ける。 あぁ、切られたんだと思う前に、横薙ぎに刀を振るえば、目の前の肉は崩れ落ち自分とは違う血を浴びる。 一瞬顔を顰め、血に濡れた顔を乱暴にぬぐった。 切られた肩は使い物にならないだろう。 さっさとこの場から離れた方がいい。 そう思って踵を返し本陣に向かおうとした瞬間、何かが身体を通って行った。
「な、ぐっ」
確認する間も無く、身体が地に縫い付けられた。
「なんだ、その無様な様は」
辛うじて動く首を左に向ければ、鼻先ぎりぎりに刀が地に刺さった。
「誰が、そのような様を見せろと言った?」
「……」
「答えろ侑哉」
「ぐはっ」
声の主が負傷した肩を思い切り踏みつける。 痛みで呻く。こんなことを平気でするのはあいつしかいなかった。 しかし、口が開かない。目も霞む。些か血を流しすぎたようだ。目の前が真っ暗になった。
「答えろ、侑哉」
「……」
「…そやつ、本当に事切れるぞ?」
一緒にいた刑部がくつくつと笑う。 地に伏した侑哉を見れば、白い戦装束が赤黒く染まっていた。
「主が、侑哉を喪いたいというなら何も言わぬがな」
「…帰るぞ」
「あぁ…」
「ん…」
朝だ。 見慣れた天井。どうやら生き残れたらしい。 相変わらず身体は鈍い痛みを感じる。熱いのは熱を発しているようだ。
「起きたか」
朝日の射さない部屋の奥からゆらりと銀糸が見える。
「…三成」
「貴様がその様に軟弱とは思っていなかった」
幽鬼の様に自分の寝ている床によって来る三成に苦笑が漏れる。
「何を笑うことがある?」
「いや、心配かけたなと」
「別に貴様にこれと言って思い入れはない」
「ん…で俺はどれくらい寝た?」
「…精々2日といったところか」
「悪かったな三成」
「何に対しての謝罪だ?」
「何がいいの?死にかけたこと?」
「そんなことは望まない」
目をそらす三成に負傷していない方の手を伸ばす。
「ごめんな三成。俺はお前のものなのにな」
「…ふんっ」
「三成。好きだよ」
痛みは愛だと
「三成に傷つけられるのが一番うれしい」
2011/06/13 22:22
⇒後書き
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