―真田、武田の為なら何でもしますよ。











『御館様、只今戻りました』



音も無く、主人の前に現れ頭を垂れる。




「ご苦労であった侑哉」




威厳ある声が響く。
私はこの言葉を聞くために生きているようなものだ。




「して内情はどうなっておる?」

『はっ、織田側にはまだ付かない模様ですが、風向きが変わるのは時間の問題かと』

「うむ…侑哉」

『はっ』

「面を上げい」




そう言われ、顔を上げる。
久々に見る御館様はとても素敵だった。



「侑哉よ」

『はい?』

「辛くはないか?」

『いいえ。私のような者が真田、引いては御館様のお力になれるのです。幸福の極みにございます』



心から笑顔を送る。
私の仕事は敵国の密偵として身売りをすること。
だが、身体を開くことで有力な情報が手に入れば、御館様や幸村様そして武田の甲斐の為になると思うと自然と苦にならない。

私がニコニコとしていると、御館様少し困った様に言葉を紡ぐ。




「そうか」

『はい』

「侑哉近こうよれい」

『はい!』




音を立てないように御館様の前に移動すると、ぐいっと腕を引かれる。
私の身体はすっぽりと御館様の腕に抱かれる。
こうして御館様に抱き締められることをとても幸福に思う。
生きて帰ってきた事を実感させるからだ。





「侑哉」

『なんですか?』

「まだ答えは聞かせてくれないのか?」

『…私には、お答えできるものではないです』

「儂は侑哉に若衆のようなことは…」

『しかし、私は幸せになるには汚れすぎました』



苦笑しながら御館様から離れる。
御館様の困った顔を横目に私は部屋から立ち去った。









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