※平坦な会話。
休日の昼下がり、俺はパートナー兼恋人である結斗を部屋に呼んでいた。 那月の奴は、買い物に行くって朝からいなかったから、心置きなく打ち合わせやらできると思っていた。
結斗が持ってきたVを見るまでは。
「ねぇ?翔ちゃん」
「翔ちゃんはやめろって言ってんだろ?で、なんだよ?」
「僕さ、一十木君が好きだよ」
「はぁ?!」
「だってかっこいいんだもん」
そう言いながら結斗は、目をキラキラさせて、テレビ画面を見つめていた。 俺はというとその隣で、身体から血の気が引いていくような感覚に襲われていた。 さっきから、結斗の口からは同じ言葉しか聞いていないのだ。 音也かっこいい。すごい。音也かっこいい…。
「(がーっ!!!落ち着け、落ち着くんだ来栖翔! 結斗の突拍子のない発言は、今に始まったことじゃない。 まず、えっと、今俺達は何をしてたっけ? あぁ、こないだの月末テストのVチェックだ。 たまたま、音也達と一緒になったんだっけ。 で、そん時聞いた音也の歌に相当惚れ込んでたんだったな) で、なんで、今、Aクラスの実習のV見てんだ?」
「え?一十木君が出てるから?」
「…あのよ?」
「なぁに翔ちゃん?」
「俺達、付き合ってるんだよな?」
「うん。付き合ってるよ?」
「……はぁ」
「ん?翔ちゃん?」
「っ?!触んなっ」
俺が項垂れると、結斗が手を伸ばしてきたが、思わず振り払ってしまう。 びっくりした結斗の顔と、テレビ画面の音也が見えて、頭に血が上った。
「あーもっ!そんなに俺様のパートナーが嫌かよ?!そんなに音也がいいなら音也のとこいけばいいだろ?わざわざ俺に見せんなよっ!あーやめだやめ、別れる。パートナーも解消する」
すっと、立ち上がって部屋から出ようとドアに手をかけたら、後ろから結斗が抱き着いてきた。 如何せん、結斗の方が背が高い。押さえつけられるように抱き着かれたら動けないのだ。
「離せよ」
「やだ。僕が悪かったなら謝るから、そんなこと言わないで」
「悪かったならって、何が悪かったかわかってねぇじゃん」
「だって、翔ちゃんなんでも怒るんだもん」
「はぁ?そんなに回数怒ってねぇけど?」
「むぅ、でも今日は怒ってるもん」
「……」
「翔ちゃん、僕は翔ちゃんが好きだよ」
「…どーだか。ってうわぁっ」
後ろに引き倒される。 バランスを失った体はそのまま床に叩き付けられる。 辛うじて、結斗の腕が俺の頭を守っていたから、頭は平気だったが、それ以外は大分痛い。
「てんめぇなにしやがる!」
「だって、こうでもしないと翔ちゃん出て行っちゃうもん」
「だからって引き倒すことねぇだろ」
「それは、ごめんなさい」
「ったく」
「僕、翔ちゃんと別れたくないもん、パートナーも解消したくない、翔ちゃんしか僕のアイドルはいないんだから」
「結斗…って違う違う!何いい雰囲気に流されそうになってんだ俺様はっ」
「これからも、いっぱいいっぱい勉強するから、龍也さん越える様なアイドルにするからっ」
「だけどな…お前さ」
「何?」
「その、なんだ…」
「ん?何?」
「…だー!わかれ馬鹿っ」
「いだっ!な、何?翔ちゃん何するのっ」
「この鈍感っ」
「えぇっなに?なんなの?」
「あーもー!結斗は俺と音也どっちがいいんだよ?!」
「えぇ?!なにそれ?!」
「こ、こっちが聞きたいんだっつーの!」
「そんなの翔ちゃんに決まってるじゃん」
「はぁ?あんだけ音也音也言っといてか?」
二人して鳩が豆鉄砲食ったみたいに目をぱちくりする。 さっきまでの熱烈な音也推しはなんだったのか? 問い質そうとする前に結斗が口を開く。
「一十木君はね、パフォーマンスと歌に対する姿勢が好きなんだよ。何事にも一生懸命で、どことなく翔ちゃんに似てる。でもそれ以上でも以下でもない。それとね、一十木君のいいとこを翔ちゃんにも取り入れたらいいんじゃないかなって思ってたから、今日一緒に見てもらったんだ」
「そ、そうかよ」
「うん!翔ちゃん大好きっ!」
なんか、盛大に惚気られたけど、なんか腑に落ちねぇ!
「結斗」
「なぁに?」
「一つだけ約束しようぜ」
「うん?約束って?」
「あぁ、
俺以外、見るの禁止!
なっ?」
2012/04/21 2:35
⇒後書き
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