「おぃ、」
その人は例えば…
「…なんですか会長」
そう!
狼みたいだ!
「屋上に行く。」
凍える冬に耐えきった種達が、暖かい風に誘われて芽を出す季節
ぽかぽか陽気に私達も誘われて屋上に上がる
勿論授業中だ。
普段は賑わうそこも授業中ともなれば人もいない
暖かい日差しに会長も嬉しそうに頬を緩ませる
風に靡いた髪をそっと掻き分ける
きっと音がしたならキラキラといっていただろう
「嬉しそうですね」
ニヤニヤと私が聞くと
「うるさい」
といつもの仏頂面に戻ってしまった
気を取り直してウーンと座ったまま伸びをして転がる
「気持ち―…」
会長はその隣で本を広げる
見やると意外と男らしい手がすぐ隣に見えて少しドキドキする
「…なんだ、」
彼は本に目を向けたまま私をたしなめる
「あゃ、いえ、なんでもないです…」
しまった、と思い慌てて目を閉じる
すると彼の甘い匂いが風に乗って私の頭を一杯にする今日初めて目を合わせた彼はクスリと笑って風によって私の口に入った髪を掬う
目立たない犬歯がいつもより鋭く見えたのは私が妄想癖なせいだ…
「…そそっ、それは会長のせいでしょ!!!!」
赤くなったのが自分でもわかってぐるんと背中を向けた
自分の腕を枕にして寝たフリを決めてかかる
しばらくクスクスと笑い声が聞こえて暫くページをめくる音だけが響いた
しばらくして急に本を閉じる音がきこえて遅れて控え目におぃ、と声をかけられた
おきてやるもんか!困ればいい!
肩に手を置かれその感触からは正反対に優しく揺すられる
「…起きないと置いていくぞ」
自分に向けられているだろう黒く澄んだ瞳と長い睫毛、それに手の感覚がリンクしてぎゅぅっと固く目をつむった
負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだぁあぁぁっ…
すると何度か揺すった手が止まった
まさか、置いていかれる…?!
そして彼は耳元に口を寄せて囁いた
「…早く起きないと…喰うぞ」
耳に掛かった吐息とテノールで背中の筋が一瞬震えた
食う?食べる?何を?そんなことを考えていたら突然耳元の彼が口をニヤリと開いたのを感じて…
ぎゃぁあぁあぁぁあぁあっっ!!!!!!!
「会長っ!!!くっ、くっくっ首に!!噛みついた!!」
「なんだ、やっぱり起きてたんじゃないか。狼娘め」
「狼は会長でしょ!!」
「俺は人間だ。」
狼麗姿
ロウレイシ
あの人は絶対絶対絶ーっ対
人間の皮を被った狼なんだわ!!
fin.
ゆびさきにキス様へ
tune 耀華より