*高校生設定











苦い飲み物はおいしくない。私はまだお子様なのだろう。

そんなわけで、私はコーヒーか紅茶か、と言われたら紅茶派だ。香りだってそんなに強くないし、口に残る匂いだってそこまで気にならない。紅茶というだけあって色が綺麗。
紅茶ならストレートでもミルクでもシュガーが入っていても何でも飲める。
決して紅茶マニアというワケではないが、紅茶が好きだ。少なくとも、コーヒーよりは。





ティータイムというにはまだ早い時間の昼休み。
私と明王は、人気の少ない非常階段の影に座り込んで弁当を広げていた。
食事の後に明王がいつも飲んでいるのは缶コーヒーで、今日だって例外じゃない。


明王が「飲むか?」と差し出してくれたコーヒー(恐らく微糖)を丁重にお断りして、私は持参してきたパックの紅茶に口をつけた。



「コーヒーはさ、砂糖が入ってれば嫌いじゃないけど、あんまりにも苦いのは飲めないなー」

「これだって無糖ってワケじゃねぇだろ。ちゃんと微糖ってかいてあるじゃねぇか」

「微糖って、微でしょ?微々たるものでしょ?それ、入ってるうちに入んないよ」



入ってるうちに入んない、なんだかややこしいなと自分でも思いながら、私は明王に紅茶を勧めた。マスカット果汁とコラボレーションをした(?)という紅茶だ。飲んでみると、殆ど紅茶の味はしなかったが。
もうマスカット味のジュース…というか、マスカット風味をつけた甘い汁に近い。これを紅茶と言い張る販売元もすごいなと思う。
明王は一口だけ飲んで、ちょっとだけ噎せ返りながら「甘ッ!」と突っ込みを入れた。



「甘ェ。甘ェし、しかもこれ紅茶じゃんねぇよ」


よくこんなもの飲めるな、と悪態をつく明王に、正直私もこれは紅茶じゃないと思いつつ失礼な、と反論する。




「明王と違って私はちゃんとお勉強してるんです。脳が砂糖をほしがっているんです」

「脳が吸収し切れない分は脂肪として蓄えられちまえ」

「おっぱいに蓄えられたらいいな!」

「馬鹿なまえ、そのままで充分だよ」




貶されているのか褒められているのかよくわからなくなって、私はあははと笑った。
本当はちっとも勉強なんてしてない。授業中は退屈で寝てしまうもの。
明王と私は残念なことにクラスが違う。だから、寝ている姿は見られたことないけれど、明王のことだからお見通しかもしれない。それはそれでいやだけれど。




「なまえさっき、苦いものは苦手って言ったけどよ」


ふと、明王が真剣な顔つきになって言った。
その真剣さに圧倒されて、私も思わず背を伸ばして向き合ってしまった。



「アレも苦手か?」

「アレって?」

「セーエキ」

「シェイク?」

「セ、イ、エ、キ!」


素っ頓狂な空耳をした私に、明王は一音ずつ区切って強く言った。シェイクとセーエキ。確かに形状は似ている。
今は誰もいないけれど、もし誰かに聞かれていたらかなり恥ずかしいシチュエーションだと思う。ていうか、ここまで強く云えるのであれば、最初からアレなんて云わなければよかったのに。
いつでもなんでもかんでも明王の言う『アレ』のこと考えてるわけではないので、アレと言われたってさしてピンとこない。


フェラ、所謂口淫というやつは、やったことがある。その際に例の白く濁った液体…体液?も飲んだことがある。口だけで最後までしたことは数える程しかないけれど、
最後までした時は必ず飲んでしまっているので、そういうことを思い返して明王は尋ねているのだろう。


私は少しだけ考えて、アレをどう表現するのが一番適切かを模索した。




「そう言うけど、私アレを苦いと思った事ないよ。人それぞれだけど」

「ちょ、人それぞれっておま俺以外に誰か、」


思ったよりも明王が焦るので少しだけからかいながら、違うよと一言添える。
そうではない。明王以外の誰かの味なんて知りたいとは思わないし、あんな顎が疲れる所業を至る所でやりたくない。


「人それぞれって、体験者の意見がそれぞれあるってことだよ。友達とかから聞いた話ってこと」

「あ、そ」


明王は安心したように、そして照れ隠しをするようにすこしだけ無愛想に言った。




「んでも、どちらかというと匂いの方が気になるかなあ」

「匂い?」

「うん。あ、でもイカ臭いとかじゃないよ。みんなイカ臭いとかって言うけどさ、私はどちらかというとプールの水に青草絞ったような匂いがすると思う。味自体は殆ど無味?苦いっていう子もいるかなあ。それこそ人それぞれなのかもしれないね」

「へー」


よく観察してんなあ、と明王は言った。自分の舐めたこととかないの、と言うと、そういう気持ちにはならないとあっさり返された。だから、客観的且つ具体的に味を評されると、なんだか複雑な気持ちになるのだとか。

特に嫌味も他意もなく言ったつもりだったけれど、明王は急にバツの悪そうな顔をしてわりぃ、と呟いた。今までそういうこと考えずに飲ませちまった。少しだけ項垂れるものだから、私はすこしだけおろおろしてしまった。


「なんで?明王の苦くないよ?プールの匂いだって、私きらいじゃないよ」



明王の味だったら、と付け足すと、明王は突然私の首もとに顔を埋めて、首筋をベロリと一舐めした。あまりに急だったから、驚いて身体が硬直する。


「俺もお前の味だったら、嫌いじゃないし、好きだ。むしろ、お前の味だから好きだと思う」

「なに、急に」

「んー?なんとなく」









「なあ、シようか」



そこからはもう考える間もなく、あっという間にブラウスのボタンが半分ぐらい外されていて、はだけたところからスっと手を入れられた。ブラジャー越しに、胸を揉まれている。
私といえば最初から拒絶する気などなかったし、正直ちょっとその気になっていた。
唐突に入ってきた冷たい空気に、胸の突起が反応した。


「や、ぁ」


固くなったソコを刺激しながら、明王はスカートをたくし上げてショーツに手をかけた。
どうやら早々にひんむく気らしい。まあ、場所が場所であるので、あまり悠長にしていられないのもあるかもしれないけれど。
下着はするすると尻を滑り降り、太腿を抜け、ふくらはぎを通ってやがて片足だけすっぽりと抜かれた。

ああこれからするんだなあ、なんてことを思っていた矢先、明王が思いがけない行動に出た。
脇に置いておいた例のマスカット紅茶のパックを手に取って、あろう事かわたしの下腹部にびしゃびしゃとかけたのだ。冷えた液体が私の局部に滴り、コンクリートの地面に広がった。




「ちょっと!なにするの!」

「検証」



手短かに応えた明王は私の両足を掴んで、ぱかっと開かせた。
液体に濡れ、外気に触れたそこが妙にひやっとする。

マスカット紅茶をかけられた私の下腹部は粗相をしたみたいになっていて、
しかも糖分をふんだんに含んだ液体だったせいでべたべたして不快だった。
そして今度は明王に下半身を抱え込まれてしまっていてなんだか情けない。明王が次にするであろう行動は分かっているけれど、それでもいつもよりもずっと恥ずかしかった。



明王は薄いカーマインみたいな色をした舌をちらつかせて、ぺろりと局部を舐め上げた。



「ぃやっ、だ、もぉ………」



舌全体で私の下腹部の溝をなぞるように舐める彼は、飼いならされた動物を連想させる。
私は明王を飼っているつもりはないし、逆に飼われている立場に近いのだけれど。
たくし上げられたスカートが明王の頭にかぶさるようにして掛かっていた。
明王は一通り満足したのか、ふぅと息を吐くとスカートから頭を出して、
気の抜けた顔をしているだろう私を見て一言。




「甘ェけど、変な味」





変な味とは、何事か。勝手に自分でかけて舐めておいて。そう言うなら紅茶代をあとで請求してやろう。お気に入りの、ちょっと高めのミルクティーを買う設定にして。
私はちょっとだけ顔を顰めながら、「さっきから失礼だな」、と言うと、明王は顔をあげて、それはそれはとても良い顔で口角をニッとあげた。



「でも、嫌いじゃねぇよ、こういうの」


―――いや、好きだ。




ああ、やられた。私はこの笑顔に非常に弱いんだ。
明王は普段は何か企んでるみたいに笑うから、こういう笑顔が見られるのは稀だ。だからこの笑顔を見せられると、私はついついいろんなことを許してしまうのだ。


明王は時折太腿を舐めたり、噛んだりしながら私の核心部を責める。
紅茶をかけられて冷えた局部に、熱い明王の舌が心地よかった。



「ぁ、……ん、………」


私のか細い変な声が、誰もいない学校の敷地内に溢れた。
授業開始のチャイムはもうとっくに鳴った。


授業をさぼって、不純異性交遊も甚だしい。


周りには私と明王以外いないし、とても静かだった。
静かだったとはいえ、声が教室で勉学に勤しんでいる学生たちに届く訳ではなかっただろうが、なんとなく私は恥ずかしくなって手の甲で口を塞いだ。


「んっ、………」



私の声がくぐもりだしたのに気づいた明王は、「口、塞ぐなよ」と、ちょっとだけ不機嫌そうに言って私の陰核をやわらかく食んだ。


「きゃっ!」


思わぬ刺激に身体が跳ね、少し大きめな声があたりに響いた。
今の声だけでは淫行に及んでいると判断されないだろうけれど、もしかしたら校舎内にいる誰かには聞こえてしまったかもしれない。
俄に顔を赤くしながら、小さく明王を叱責すると、
明王はまた顔をあげて、私の弱い笑顔で笑った。
もしかしたら明王は、私がこの笑顔に弱いってことを知っているのかもしれない。だとしたら、免罪符に使ってくるなんて、とてもタチが悪い。でも、結局のところ、私は明王が好きなので、免罪符だろうがなんだろうが許してしまうのだ。


舌で陰核を刺激されながら、今度は明王の男の子らしい指が入ってきた。
彼は脚でボールを扱うから、手は肉刺があったり荒れていたりはしないけれど、
女の私と比べるとやっぱり骨張っていて太い。
はしたないから口にはしたくないけれど、陰核を刺激されながらナカを弄くられるのは、最高に気持ちがいい。むずむずと、そわそわと、身体の奥から延髄を這って脳に快楽が到達するような感じだ。焦らされていたとしても、気持ちいいからそれはそれでいい。
変な話、そう感じてしまうのは明王に飼いならされている証のような気もするけど。


はっ、はっ、とすっかり息が上がってしまう私を確認して、明王は持っていた荷物のナカから小さいケースを取り出した。プラスチックで出来た、無愛想でシンプルな四角いケース。見慣れたコンドームケースだ。
その中には、一連なりとなった避妊具がキチンと折り畳まれて収まっている。




初めてコンドームケースを見た時、私はたいそう驚いた記憶がある。
思わず、財布には入れないのかと聞いてしまった程だ。
避妊具の備えがある人たちは、イザという時のために財布の中に入れておくのだと友人から聞いたからだ。私は明王以外の経験は殆どないので、実際に見たことはないが。
すると明王は呆れ顔で、


「財布ゥ?んなモンに入れたらゴムが傷つくかもしれねーだろ」


と、至極最もな答えを返してきた。そういう所がマメなのだ。彼は。
私が感心していると、


「俺はこれでも、好きなヤツは大事にしたいタイプなんだけど?」


と言った。つまり、明王が云うには、財布に入れて予期せぬダメージを受けて、コンドームに小さな傷がついていたとすると、そのコンドームはコンドームとしての役割を果たせなくなるわけだ。そうすると、私が"キケン"に晒されるので、それだけは絶対に避けたいそうだ。
明王は少し意地悪で人相が悪くてモヒカンでしょっちゅうベンチにいるけれど、所々に優しさが出ているのだ。私を扱う手つきだって、なんだかんだ言って優しい。
彼は、自分が受け入れたものは基本的には丁寧に扱う。
だから私も大切にされているのだと思って、しみじみと嬉しく感じたものだった。








パカ、とコンドームケースが開く音がする。
明王は、中に入っていた一連のコンドームのうちの一つを切り離して封を開けた。
ぬるついたゴムを、既に緩く勃ち上がった竿にかぶせる。
ゴム独特の匂いが、私の鼻腔をついた。




「なぁ、大丈夫か?」

「うん、ヘイキ」




ゴムの匂いと、擦れるあの感覚はどうしても気になったけれど、明王と繋がったからそれもいいかなと思う。
ゴムの匂いの他に、明王が私にかけたマスカット味紅茶の匂いとか、そういったものが混ざり合って、よくわからなくなってくる。
よくわからない私たちが混ざり合って、今がある。
非常に不思議だ。


ぐちゃ、ぐちゃと、あまり心地よいとは言えない音を響かせながら、それでも音に合わせて二人の身体が揺れる。




「うぅ、ぁ、痛い、」



つながることに痛みを覚えている訳ではない。腰を打ち付けながら、明王が私の首筋を噛んだのだ。甘噛みだが、がじがじと。
明王は噛み癖がある。それが何を意味するのか、私には判断しかねる。




「なんで、噛むの」

「好きな味だから」

「……」



なんだか、あんまりにも情緒がない。セックスの最中の言葉じゃない。
けれど、甘ったるい雰囲気だとか、愛してるだとか、なんだとかそういう言葉は、私たちの関係には似合わない気がする。
だから、これはこれで合ってるのかもしれない。身体を揺さぶられながら、子宮の入り口を突かれながら、快楽に頭をやられて、それでも情緒のない言葉を言う。


ぐずぐず、ぐちゃぐちゃ、ぬるぬる


「ぁ、きお、明王っ」

「なまえ、」



首もとから痛みが消えて、今度は耳の近くから切ない声が聞こえる。
気持ちを堪え、快楽に飲まれるような声だ。私は明王のこの声も好きだ。
特別なことをしている気がする。

身体の中を快楽が這ってゆく。どんどん支配されて、私の身体が明王の一部になり、明王の身体も私の一部になるような感覚がする。詩的で素敵な表現なんて、私はできないけれど、言うならきっとそれが一番しっくりくる。




「ん、ぁ!」

「っ………」



上り坂を走り抜けるように快楽の波が迫ってくる。高みに到達する。
ぷつ、と白い世界が緩やかに弾けた。



二人で息を荒げながら、行為を終えてすこしだけぐったりとする。
明王は力を失った竿を私のナカからずる、と引き出してゴムを外した。




「ん、セイエキ」

「出したから当たり前だろ…。てか、なにやってんのお前」

「え?検証」





先ほど明王に言われたのと同じように言葉を返す。
私は明王が外したゴムを奪い取って、掌の上にそれを出した。
ゴムの中には白濁の液体。白く、ねばついた液体が私の掌に広がる。



ゴムの匂いと、やっぱり青草の汁を混ぜたプールのような匂いがする。それから、やっぱりセックス特有の匂い。殆ど屋外みたいな場所だけれども、私と明王が居る場所にはそれが強く漂った。
性と性の匂い。行為の匂い。



こんな場所でセックスをしながら、結局のところ、私たちはよく似ていると思った。
コーヒーか紅茶か、甘いものか苦いものか、そういう違いはあるけれど。



これから大人になるとして。
明王は多分、私を好きでいてくれるだろう。私は私の領分を出ずに、粛々とこの愛を受け止めていよう。たとえそれが苦かろうが、甘かろうが。
愛される努力、…努力とまでは言わないけれど、気配り。そういった些細なことが、とても大事だ。
明王はコーヒーを好んで、私は紅茶が好きだけれども。それに善し悪しなんてないのだから、上手に折り合いをつけていけばいい。



きっと、甘みも苦みもどっちも好きになれる。
私たちはそういう風にして、少しずつ混ざり合っていけば善いのだ。



「嫌いじゃないよ、こういうの」



私は掌に広がる白く濁った液体をぺろりと舐めた。







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