「鬼道さ、ぁ…」

「っ…」

「はっ、」



荒い吐息と嬌声が混じり合い響く暗い部屋の中で
俺の下に組敷かれた少女は苦しそうに俺の名を呼んだ。
翼をもぎ取られたような彼女の瞳は絶望のような色をちらちらと見せていて、
その度に胸の奥がずきずきと痛む。

俺はこの少女のことを誠心誠意の侭に愛し、ただ慈しんでいたいのに。
いや、少女と言うには失礼なのかもしれない。同い年の、彼女を。



「あ、ン…」

「なまえ…」



数時間前まで俺と彼女の間にあったのはただの部活動の仲間同士という関係だった。
ただ少なくとも俺はなまえのことをただの仲間だと思ったことなど一度もない。
自分の価値観が崩されてしまうのはあっけなかった。例えば、そう、あの影山のことを『影山総帥』と呼んでいたときのように。
…その時でさえ多少の迷いと狼狽があったかもしれない。
それが今はなんの躊躇もなくなまえの身体を床に押し付け、服を裂き、穢している。






『総帥が帰ってこないんです』

『心配ですね』

『鬼道さんは、何かご存知ではないのですか?』

『総帥…』





影山が突如として姿を消した理由を彼女は知らない。
俺は彼女との関係を壊したくなくて、影山が居なくなったことを伏せていた。
彼女にとっても、影山は大きな存在だったから。



『本当に、どうしたんだろうな…』

『大丈夫だ、なまえ』

『総帥のことは心配要らない』

『泣くな…、なまえ』






俺は、影山を越えられないでいる。
彼女の中からも、そして、自分の中でも。



影山を想って泣く彼女に欲情して無理に壊そうとしているのは俺自身だ。
腹が立ったわけでも、苛立にまかせたわけでもなかったのに。
大切に作り上げてきたはずのものを壊すことの容易さに肌がわずかに泡立った。
いくら信頼関係で結ばれていたとはいえこうも強引に抱いてしまうことは許されることじゃない。
好感をあたためて、強欲は忘れて、焦燥を横たえて、嫌われないように、磨耗させないように。
そうしてじっくりと、築き上げてきたはずだった。



「どうっ、し…たんですか…」

「…」

「は、鬼道さん、ぁッ」



これ以上言葉を紡がせないように口を塞いだ。
舌と舌が絡み合って(正確には強引に絡ませて)、水音がくちゃくちゃとやたらに耳につく。
自分がおかしな行動をとっていることぐらいわかっている。
この混沌と狂熱の情動をなまえは理解できないようで、やはり怯えている。
俺にさえ自分のことが理解できないのだ。説明しようがない感情に、俺自身も怯えている。


「怖、ぃ…よ…ぁあっ、あ、」

「なまえ…!」

「鬼道さっ、やめっ…ん!」

「もう、遅いんだ…」



もう戻ることの出来ない関係を追憶のように思い出しながら、それを踏みつけるようにして現在の行為に及ぶ。
我ながら矛盾した行動に自嘲の気持ちが湧いて出てきた。
不可解な感情に支配されるが侭に、なまえの綺麗だった身体をどんどん汚していく。
首筋に噛み付くようにして、赤い痣を刻み付けた。


情動のセックスに、彼女の怯えと絶望感と、俺の理解不能な感情が混ざり合って恐ろしい程に混沌とする。




「許してくれ、なまえ…」

「ぁ、ん、うぁ!」


そしてさしてならしてもないソコに己の高ぶった欲望の象徴をねじ込んだ。
濡れてはいたが、十分にほぐされていないソコは猛ったモノを受け入れるはずもなく、
なまえは金切り声ともとれる悲鳴をあげた。
くわん、と部屋に彼女の泣き声が響く。


「あ゛っ、ぁっ、あああ…!!!」

「っ、力、抜けるか…?」

「無理、いや、ぃや゛、抜いて、ぬ、い゛てぐださっ…!!!」



ぎちぎち、とかそういう音が聞こえてきそうな接合部からは血が滲んでいた。
体液と血液が混じり合ったソコを自分の欲望が開くように進んでゆく。
優しさを模したような言葉だけを告げて、行為自体は暴力的に進行する。
必死に首をいやいやと横に振るなまえを無視して、口だけは労るように言葉を紡いだ。
たとえなまえが力を抜けなかったとしても、俺はこの行為を止められはしないだろう。
泣き叫ばれても、いやと言われても、全力で抵抗されたとしても、きっと。


「いたい゛、いたいよぉ、」


ついに泣きじゃくりはじめたなまえの額にキスをした。
そんな生温い慰めで、彼女が泣き止んで納得するとは到底思っていなかったが。

痛がるなまえの薄い肩を片手で床に押さえつけて、
もう片方の手で腰をぐっと掴み更に深く挿入した。痛みでびくびくと身体を震わせるなまえを今度は抱きしめながら、せめてもの優しさを示したくて頭をぽんぽんと撫でた。
一方的な性欲を押し付けてしまっている以上、今更とってつけたように優しくしたって解決するわけじゃない。そんなの、小説やマンガやドラマの中でぐらいしかないものだ。実際はもっと、(こんなふうに)ぐちゃぐちゃしていて、ややこしくて、そして取り返しがつかないのだ。
それが急に『ずっと好きだったんだ』『私もです』と収まるんだったら、世の中の性犯罪は大体がそうやって解決されてしまいそうだ。


「んン゛…ッ、ぁああっ、」

「なまえ…」



僅かだか溢れてきた血まじりの体液を、壮絶なことになっているソコの少し上に飾りの様に付いているクリトリスにすりつけて刺激した。


「ん、は!」


さすがにそれは快楽を引き出したようで、なまえの声色が明らかに変わった。
可愛いなまえの声を聞くのは初めてかもしれない。いや、いままでも可愛かったけれど。
この色情に及んでから、初めて耳にするつやのある声だった。
当の本人は自分からこぼれでた声に驚愕して口を塞いでしまった。




「声を、聞かせてくれないか」

「や、ぅう…、ん、んんっ!」




親指で擦るようにして小さく主張し始めたクリトリスを快感へと誘う。
それと同時に、停滞していた腰の動きを再び始めた。
ナカが擦れて痛むのか、なまえの腰がまたビクン、と跳ね上がる。熱をもったようにあつくなっているソコが、ぎゅうぎゅうと押し返すように俺を拒絶していた。
それでも俺は俺を止めることができない。



「いたいいっ、いたい、鬼道さんっ!はっ、んぁっ」

「…っ、くッ」


きつくきつく締め付けられるそこに全てをもっていかれそうになった。
このまま熱で溶け合ってしまえば良い。過去も、これからも、俺となまえの間にあった関係もすべて。
蟠りさえなくなり、ただそこにはひとつの溶け合った想いだけが残っていれば良いのに、と思った。そんな都合の良いことが赦されるはずもないが。


ただ、俺は。



「あ、んン…、ぅっ、はっ!」



赦されていたいのかもしれない。



「鬼道さっ、ん、!」



俺にとっても彼女にとっても全てだった総帥を、影山を打ち壊して、
過去の俺から、そして現在の彼女から赦しを乞いたいのかもしれない。
仲間達からはこれでよかったのだとか、しょうがなかったのだとか、生易しい慰めの言葉を貰ったとしても、一番大切な彼女には、赦しを乞うどころか何も告げられずにいる。
徹底的に情報を遮断し、ごまかし、嘘で固めた。


俺は彼女に何を与えられた?





『私、最近思うんです』

『総帥は、多分もう帝国には帰ってこないんじゃないかって』

『鬼道さんは、本当はご存知なんですよね?』

『私は、大丈夫、ですよ』






涙をこぼしながら、健気に必死に微笑もうとする彼女をこうして犯した。
全ての罪状を受け入れるつもりでありながらまた罪を重ね、そうして更に赦されようとしているなんて、烏滸がましいにも程があるというのに。

ぬかるんで熱い局部から棒状の罪を抜き差ししながら、己の罪悪を高めていく。





「やっ、鬼道さんっ!!」


ビクリと震える彼女の身体と、つっぱねられるようにして力が入る四肢。
つま先までピンと力が入り、どうやらナカも快楽を受け入れ始めたことが伺える。







彼女は、なまえは、本当は知っていた。
俺の弱さも、影山がどうなってしまったのかも。
それでいて、何も知らない『ふり』をしていた。



―――なんのために?



答えは明白だった。




「なまえ、は、」

「ん、んん…ぁ、う!」

「俺を、傷つけないようにしてくれていたのに、な…っ」

「…ぁっ、鬼、ど、さん……?」

「すまない…!!本当に、…!」

「ぁ!いやっ、んぁ、ぁ、あっ!!!」





俺は、守られていたのだ。
彼女を守るようでいて、実は守られていたのだ。彼女は自分が知ってしまうことで俺が傷つかないように、必死に知らぬ振りをしていた。知っていることを知らない振りをしてふるまうのはさぞ辛かったことだろう。それでも彼女は俺を罵倒せず、苦しめず、ただひたすらに従順でいた。美しかった。
人はこれを、慈悲と呼ぶのだろうか。



「っひっ、ぐ…っ、!!っ、!」

「すまない…、すまない、なまえ…」




俺の両手が彼女のか細い首を捕らえた。そしてゆっくりと力をこめる。
呼吸困難に陥った彼女の喉からは空気が詰まるような音が抜けた。
赤く染まった彼女の頬が、この局面からは想像もできないほど美しいと感じる。

何もかもがから回っていた。
俺は彼女に何も施せない。
俺は彼女に赦してもらうことはできても、俺は彼女を赦すことができない。なぜなら、彼女は何も罪を犯していないからだ。
俺だけが罪深く、彼女を苦しめている。彼女を、解放できずにいる。



「っは…なまえ…、なまえ…!!!」

「ん、ぐ、ぅぅうううっ!!!」



ぎゅう、と一層締まる彼女のナカで俺は全てを彼女に預けた。
今までの全ての罪が、重ねて来た時間が、壊れるように、決壊するようにして彼女のナカに注がれる。
苦しそうに両手を宙に浮かべ、何かをつかむようにする彼女の両目から涙が溢れた。
そしてその両手はやがて俺の頬に触れ、撫でるようにしてすべりおちた。


両手を離したとき、力の抜けた彼女の首もとに雫がこぼれ落ちた。
これが自分から落とされた罪のかけらだと気づくまで、俺は彼女のナカでぐずぐずと停滞しているのだった。





彼女の中で全てを赦されていたい








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