日記があれば読みたくなる。
携帯があれば誰と交流があるのか知りたくなる。
電話の内容や、女子同士の会話さえ気になる。
一日中眺めていたくなる。

関わっていたくなる。


自分のこれは束縛や監視ではなく、ただ好奇心からくるものだと思っていた。
恋人の内面を知りたがるというのは至って普通の心理であり、
また、恋人であるからこそ許された特権だと信じて疑わなかった。


何処からが過剰で何処からが許容だなんて、だれも明確な線引きは出来やしないだろう。
Aという人間にとって日々のメールが束縛に感じたとしても、
Bという人間はメールだけでは飽き足らず毎日電話をしたりする。
人間関係はそのような曖昧さが積み重なってできたものだ。
自分の此の行動だっていちいち気に留めるものでもないはずなのに。
恋人なのだから。

そう。


恋人なのだから。





「なまえの行動全てを知っていなきゃ気が済まねぇってワケじゃねェんだ。ただ何をしていたか知りたくなるだけさ」

「それを人は監視と呼ぶんだ。みょうじだって自由はある。お前が全て知っていいというわけではないと思うぞ」




自分の論理を打ち明けると、かつて同じ中学でサッカーをしていた男にそれとなく諌められた。
転校してからも変わらないドレッドヘヤー。
鬼道は、ゴーグル越しにもわかる真剣な目で俺をじっと見返してきた。



「今はブログやリアルなんてざらにあるだろ。プライバシーなんてあって無きものじゃねぇか。だれだって私生活を公開しているくせに急にプライバシーを訴えるなんておかしな話だ」

「それは相手が自分から開示しているかそうじゃないかの違いだろう。いいかげんにしろ、不動。さすがにみょうじも参ってるぞ」

「ふーん、やっぱなまえは鬼道に相談してたんだな」




途端に鬼道が『しまった』という表情になった。


簡単な話だった。
恋人のはずのなまえが近頃俺に連絡を全くよこさない。
理由を聞きに迫ってみてもそれとなく目を背けて話題を変え、最後には逃げられてしまう。
しかしどうやら、別れたいとかそういったことではないらしかった。
自分にも原因の自覚がないわけではなかった。
ただ、自覚はあれど何故それをなまえが許容しないのが理解できないでいるのだ。
そう、これは純粋な好奇心からくるもので、恋人同士としては当然のことなのだから。


困惑や戸惑いの表情を浮かべながらそれとなく俺を避けるなまえがするであろう行動は一つだ。
俺となまえの両者のことをよく知っている鬼道に相談するに違いない。
過去の行動から考えてみてもそうするだろうことは安易に想像できた。
今日あたり鬼道に聞き出してやろうと思ったら、案の定だ。

なまえのことを(或はなまえの行動を)よく理解していたからこそスムーズに予測できたのだ。
もしこれで世間一般の男が、好いた女のことをよく知らずに急によそよそしくされればパニックに陥るだけだ。
相手のことをよく知りたいという好奇心をもって、何が悪い?



「鬼道クンとなまえがどう思ってるのかはよくわかった」

「!、不動、わかったなら―…」

「改善する、とは言ってないぜ?」




「不動!」




大体のことを把握したあと、俺はもう用済みだと言わんばかりに鬼道に背を向けて歩き出した。
途中で大声で名前を呼び止められたが、手だけふって振り返らずに進んだ。
もちろんなまえの自宅の近くに向かう。
この時間帯なら、寄り道などしていなければ大通り近くの交差点を通過しているはずだ。







車や人の行き交う道路を、たった一人の女を探して歩く。



街は、五月蝿い。



そして寂しい。





どれほど人がいようがその個人の内面など見えやしない。
この街の9割以上の人間と関係がない。
人と人の間にあるものは、決して名前のついた関係ばかりではないことを象徴しているように。
その9割以下の、1割の中の、さらに特定された関係の相手を知りたがらないで
一体俺は誰を知りたがれば良いというのだ。


誰かがこれを『依存だ』とか『悪癖だ』とか言うが
それではお前達は一体どうして自分が自分足らしめているかを知ることが出来る。
人間は他者を通してしか自分を見ることができない。
だから他者の存在に拘るのだ。
特に、自分の身近な人物であればある程。

まして、恋人同士なら。







***






「見ィつけた」




見慣れた制服の、見慣れた後ろ姿を発見した。
それと同時にやってくる安堵感。
情けないことになまえの姿が見えないと無意識に自分が緊張しているのがわかる。

ゆっくりと背後から近づき、なまえの片腕を掴んでビルとビルの隙間に連れ込んだ。



「え…!?」



夕方のざわめきが残る街の狭い路地裏に入り、壁際になまえを追い込んで両腕をなまえの両側に付いて逃げられないようにした。
なまえの少し怯えた瞳に俺の姿が、映る。



「やっと捕まえた」

「明、王…」

「鬼道に俺のこと相談したんだって?」

「え…何で、知って、」

「お前がどうするかぐらい想像できるさ」





この薄らぐ暗い路地裏にはそぐわないほど、ウブなバードキスをなまえの顔面に降らせる。
それでもなまえの表情は未だ怯えていた。
なまえがこういった場所に慣れてないことぐらい知ってる。
俺の不可解な行動に不信感や恐怖感を抱いていることもわかっている。
けれど自分を止められるほど、俺は器用じゃない。
なまえのこととなればことさらだ。


本当なら抱きしめるとか耳元で「好きだ」とか、甘言を朗じてやれば良いのかもしれない。
なまえだってそういったベタな展開が嫌いなわけではないし、恋人らしさを求めるならそういった行動をして安心させてやればいい。
けれど俺にはそれが出来ない。
それよりも何よりも、俺を突き動かすのは『なまえを知りたい』という好奇心のみ。





「まって…!」

「何が」

「ちょ、な、何するの」

「ちょっと黙ってろ。今探し物してるから」


洋服の下の体つき
瞳の色、今日の表情、今の気持ち
そして心の中。


「なにを、さがしてるの」

「さァ、何だかね」



答えをはぐらかし、戸惑うなまえをそのままに、心の在処を探そうと一枚一枚服を脱がす。
制服のブレザーのボタンを開き、ワイシャツに手をかけようとした段階でさすがに抵抗された。


なまえの身体だって開かれていないわけじゃない。
つながらなかったことがないわけじゃない。
開通の痛みゆがめられた顔も、快楽で必死の顔も、みんな見たことがある。
でも、そういえば、怯える顔は見たことがない。


そう。
こんな時どういう顔をするのか。
ただ好奇心が、あるだけだ。



「ここはいやだよ、やめよう」



あまり目立った抵抗はしなかったが、言葉で必死に俺を止めようとする。
ああそうか、なまえはこういう時はこういう反応をするのか。
頭の中に刻み付けるようにして、なまえの行動を一つ一つじっと観察する。
が、もちろんことを進める手を止めることもない。



「ひっ…」



首を噛んで、噛んだ上からそこを舐め上げた。
なまえの細い首にくっきりと赤い歯形が残る。



「赤くなったな」




なまえに言ったわけでもない、独り言じみた言葉にびくりと彼女の肩が跳ねた。
別に髪を結われてもかまわない。むしろ、そうして欲しいような自分がいる。
なまえは俺が観察しているんだ。俺の、恋人だと。
そう周囲に言わしめるように。


全て外されたワイシャツのボタン。
その白いシャツの中に手を入れて、ブラのホックを外した。
中途半端に外されたそれのしたに、なまえの小ぶりだが形のよい胸が存在した。


「ぁ、」

「外だからちょっと興奮したか?」

「そん、な…ぁう」


胸の中心でぷっくりと主張している突起に指を這わせる。
擦り上げる度にぴくぴくとするなまえの身体。
耳元でささやいて、最後にやんわりとソコに噛み付くと、ぎゅうとしがみつくようにして腕をまわしてきた。




ガガガガ、と、どこか近くで工事中のドリルが回る音がする。
今日もどこかで何かが壊され、または建てられていく。


こんな場所に滅多に人が通ることはないだろう。
けれど決してその確立も0とは言えなかった。
外という緊張のためか、それとも羞恥のためか、なまえの身体は小刻みに震えていた。
その姿をみると、何故だかもっと困らせてみたくなる。


「やっ、」


小さく悲鳴をあげるなまえのスカートのホックを外した。
すとん、と落ちたそれが地面で小さくまとまった。
はだけたワイシャツと、パンツと、黒いハイソックスだけが彼女の身体に残る。
全て脱がされたわけではないが、全裸よりも一層いやらしさを増した気がする。
屋外の、薄汚い路地裏で、という背徳感があるからかもしれない。


立たせて向かい合ったまま、なまえのパンツを降ろして膝の辺りで止めた。


「少し足開きな」



恥ずかしそうに、けれども従順に動く彼女の満足して口の端をつりあげる。
膝の辺りにあるパンツのせいで控えめに開かれたそこに手を忍ばせる。



「んぁ!」

「へェ…恥ずかしがってる割にはしっかり濡れるんだなァ?なまえチャン」

「も…、知らない…!」






股をまさぐるようにして指でなぞれば、ヌルリとまとわりつくなまえの体液。
指にしっかりとまとわりついたそれをじっくり観察するようにして見詰めた。
透明なソレが、指を覆うようにして輝く。
淫猥なはずのソレなのに、なまえの身体から分泌されたかと思うと神聖なものの一部のように思える。



「あんまりみないでよう」

「あー」



なまえの要求に生返事をして、再び手をソコに這わせる。
今度は内股を撫でながら、核心部分に触れたり、触れなかったり
それとなく焦らすようにして愛撫する。


「ひゃっ…や…」




足をふるわせて快楽に耐える。
初めて見る表情でもないが、俺を煽らせるのには十分だった。


「あっ、ん!」




親指で陰核を撫でながら、人差し指をなまえの体内に入れた。
中はとても暖かく、ぬかるんでいる。
止めどなく溢れる体液のおかげで、抜き差しがスムーズにいった。
それと同時に、なまえの喘ぎが一層大きくなる。



「お前、クリとナカいっしょにされるの好きだよな」




知ってるぜ、と笑いながら言えば、喘ぎつつも恨めしげに睨まれた。


こんな時はこんな顔をする。
こんな時はこういう行動をとる。
何が好きで、何が嫌い。
羞恥心をかき立てることが何なのか。とか、
ある程度は確かに知っている。
それでも、まだもっとなまえのことを知っていたいのだ。
これ以上ないほどに。





(そしてあわよくば ずっと近くにいてほしいとか)
(俺の目のとどくところから離れるなとか)
(他のやつにはなしかけるなとか)








『恋人だから』


自分自身に言い聞かせて来た一種の良い訳だった。


言うなればこれは嫉妬や寂しさに似ている。
それに比例して膨らむいかがわしい好奇心が、情動をかき立てる。




「んっ、っぁ」



きゅ、と締まるように動く彼女の膣内で、指を動かしながら蜜の分泌を誘う。
情動と、欲情と、彼女の淫媚さと共に。



片手でベルトを外して、腫れ上がった自身を取り出した。
喘ぐ合間に小さくなまえが息をのむのが聞こえた。
しかし、すこし開かれた足を閉じさせると、なまえはまた戸惑って俺を見上げる。
なにをするのか、と言いたげなその顔の鼻先に、小さくキスを落とした。



「なに…、きゃっ!」



閉じさせた股の隙間に自身を滑り込ませた。


「なに、これ!あ、ん!」

「何って、スマタ?」

「ひゃっ…も、変…、もどかしっ、んぅ」




俗世間で言われているような名称を疑問系で答えると、なまえは困ったように眉を垂らして見詰めてきた。
ぬるぬるとした彼女の下腹部のくぼみに自身をこすりつける。
ナカに挿入するのとはまたちがう何か、卑猥さのようなものがこみ上げてくる。
決定的な快楽を与えられないなまえはもどかしげに身体をくねらせたが、
感じるには感じるようで次第に甘い声も大きくなってきた。



べしゃべしゃの下半身をお互いにくっつけて
どちらのものともつかない体液でべとべとになって
甚だしく場違いな空間の下、病的に性的な行為に耽る。



工事の音と音の間から、僅かに水音がする。
これが自分たちの身体から出ている音だとはとても信じられないような
粘着質な水が絡み合うような音がすぐ傍から響いている。



「…やっぱ、挿入るか」

「きゃ!」


もどかしそうななまえの顔を見ていたらたまらなくなって
膝のあたりにひっかかっているパンツの端を荒々しく引きちぎった。
ナイロンの可愛い下着はあっけなく破かれ、スカートの上にぽとりと落ちた。



「あ、パンツ!」

「今日はノーパンで帰れ」



くくく、と喉で笑いながらちょっと泣きそうななまえの唇にこんどこそちゃんとしたキスをして
片足を持ち上げて反り返った自身を押し込めた。
肉をかき分けて進む竿。
お互いに体液塗れだったから予想以上にスムーズに入った。
ぬかるんだなまえのナカは暖かくて気持ちがよい。
もうずっとこのままでも良いかもしれないと思う程に。


「ああっ、ぁあああ」



膝ががくがくと震え始め、自力で立っているのが難しくなったなまえを抱えて壁に押し付けるようにしながら突き上げた。
時折涙が彼女の頬を伝う。
乱暴にされて悲しいのか、生理的なものなのか、それとも。



それとも?



「明王ぉ、あき、ぁ、はっ」

「寂しいなァ、なまえ」

「え…、さびし?きゃぁぅっ!!」



知ってるつもりだったってだけだ。
知ってるようで知らないのが本当の人間関係。
俺となまえだって本当はそうだ。知っているようで赤の他人。別の人間。




『恋人』≠『恋人のような行動』



判っていた。なまえが本当は誰が好きだったのか。
なまえの友好関係がどんなもので、誰と、どのように連絡をとるかぐらい。



知れば知るほど寂しさが増幅されていく。
知れば知るほど摩耗されていく。
それなのに気づいたらもう、知らずにはいられなくなっていた。






「…アイツとのキスはよかったか?」

「!、何、言って」

「知ってンだよ」



本当は、なまえがどのように振る舞っているか。
その振る舞いがいろんなヤツを勘違いさせることも。
ちょっとなまえが悲しんで怖がる素振りを見せれば慰めてキスをしてやりたくなる。
それは俺だけじゃない。


だけど寂しさはくだらない。
壁にスプレーで描かれた『Fuck you!』の文字に全くだと共感して
ああこの世の中は案外どうにもならないと、昔から思っていたことを今更ながら痛い程実感する。





「ぁ、んん、―――!」

「ッ、」



いっそうギュウ、と締め付けられて
もっていかれそうになったがギリギリのところで持ちこたえる。
未だひくつくソコからイチモツをズルりと引き抜いて、支えを失ってへたり込むなまえの顔に射精した。



「ゃあっ…」



力なく声だけで抵抗する彼女の額から鼻先、そしてゆっくりと輪郭をつたって胸元にまで滴り落ちる白濁色の液体。
涙の痕とだ液と、ザーメン。そして乱された服。
端から見たらレイプでもされたような呈だった。


ズボンを穿き直しつつ、ポケットから携帯を取り出してカメラを彼女に向ける。
肩で息をしているなまえはこれから何をされるのかに全く気がついていなかった。







―カシャ



「…!?」

「おー、よく撮れた」



電子音の後に画面に映ったのは、画面外に居るなまえそっくりそのままの姿だった。
犯されたような格好と路地裏と、そして壁の『Fuck you!』が見事に一体感を成していた。




「やだ…!消して!」

「あのさァ、なまえは俺と付き合ってて、俺がどんな人間かわかんなかったワケ?それとも興味なかったのか?なァ」

「明王、」

「これが出回ったら、なまえはどうする」




殆ど絶望のような色に染まったなまえの瞳には俺が映っていた。
完全に俺に対して怯えているなまえを見下すようにして言う。


「俺はなまえが思ってる程、生温くお前を好いてるわけじゃねェんだ」







(本当はどんな手を使ってでも)


「自分の手元に置いておきたいと思ってるし」


(どこかへ行こうとするならば)


「離れていくのは許したくない」




(だから、知っておきたい)



「お前が一番知られたくないことをな」







絶望しきった顔を見るのは初めてだった。
生臭い好奇心に突き動かされるようにして俺はなまえを壊していくだろう。
こうして『悪癖』は治らなくなっていく。
こうなったら離れられなくなってしまえばいい



『恋人なのだから』











50000
yap/oos 『私は好奇心が強い女』より



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