いつものように練習を終えると、みょうじが鬼道と一緒に話しゃべっていた。
聞くところによるとあの二人は幼なじみらしく、普段もよく一緒に居る。
「豪炎寺くん練習おつかれー」
「あ、ああ...サンキュ」
鬼道との会話を終えたのか、俺のもとにドリンクとタオルを持ってくるみょうじ。
独特の間延びしたしゃべり方で、にゅっと手に持ったものを差し出してきた。
さっきまで傍にいたはずなのに、鬼道はいつの間にかに居なくなっている。
「...鬼道はいいのか?」
「なんで?」
「いや、いつも一緒に居るから」
「そんなにいつもってわけじゃないよ」
あははと笑うみょうじにそうか、と言うものの
実際に俺がみょうじを見かけるときはたいてい鬼道とセットだ。
「豪炎寺くん、」
「ん?」
「豪炎寺くんのシュートは、すごいね」
ニコニコと笑みを絶やさないみょうじ。
「虎丸くんとのコンビ、ビシーって決まってたよ。」
あたしもあんなシュート打てたらなーかっこいいなー。そんな事を言いながら、
みょうじは俺の元をふらふらと去って行った。
彼女は、掴みどころがない。
なんというか、不思議、というわけでもないが。なんとなく。そう、なんとなくだ。
鬼道が彼女を馬鹿だ馬鹿だ、と形容しているのをたまに耳にするが、あの独特の間延びしたしゃべり方が、どことなく間抜けな雰囲気を漂わせているからだろうか。
いや、そもそも彼女はマネージャーでも何でもなんでもない。
たまにこうしてマネージャーの仕事を手伝うこともあるが、基本的には試合を見ているだけだ。
今回の合宿にだって、鬼道が連れてきた。
いつのまにかにここに馴染んでいる。
監督も他の選手も何も言わない。
「なまえちゃん、今夜、頼めないかな?」
「あれ、吹雪くん?珍しいね。今夜は暇だからいいよー」
吹雪の声に、ふと気持ちが現実に引き戻された。
視線を向けると、吹雪と話すみょうじの姿があった。
そこでもやはりニコニコと話すみょうじ。
...そういえば、夜中の廊下でみょうじを見かけることがある。
頼むとは、一体なんなのだろう。
まれにこうやって他の選手たちが、みょうじに何かの頼み事している。
俺にはそれが一体なんなのかがわからない。
マネージャーですらないみょうじに、何を頼むというのだろうか。
...考えても無駄だ。
もしかしたらみょうじは俺の知らないところで、しっかりとマネージャーらしき仕事をこないしているのかも知れないし、今回だって吹雪との個人的なやりとりだろう。
俺には関係ない。
関係、ない。
そう思い、俺はみょうじに背を向けて宿舎に戻ろうとした。
「ありがとうなまえちゃん。君が馬鹿でよかったよ」
吹雪のそんな声が、聞こえた。