なまえは突然拒むことをなくなった。
俺の言葉に従っているのか、はたまた諦めてしまったのかは分からない。
ただ壁の一点を見詰めて、いた。なにを考えているのか分からないいつもの表情で。
瞳がうっすら涙の膜で覆われていたことからもしかしたら泣きそうなのかもしれないと思った。


どんな時でも泣かなかったなまえ。
昨日ここに連れ出すまで涙で濡れていた瞳を思い出す。





どこにも行かなくたって俺はずっと、なまえを愛することぐらいできる。
そう伝えたかった。それだけだった。
言葉にできなかったのは、過去のあの出来事のせいだけじゃない。
僅かに心の中にちらつく



「ぁ…、有、」


背徳感が。



「んっ…」




その背徳感を振り切るようにしてなまえの身体のラインをなぞり、その白い肌に口づけをした。肌理の細かい滑らかな肌に、真っ赤な罪悪の花が咲く。
俺がなまえと繋がっている証。俺となまえの、絆。
最初からこうしておけばよかった。はじめからなまえを閉じ込めて、誰にも触れさせないようにしておけばよかった。
そう後悔しても、過去を変えられるわけではない。
しかし今からだって、遅いわけではない。

甘美な吐息がなまえの口から溢れるたびに身体が熱くなるような気がした。
もっとその声を聞いていたくて、手を這わせてたどりついた秘部をなぞる。


「あっ、ン!!」


ぴく、と反応して跳ねるなまえの身体を逃さないように抱え込む。
甘い匂いがした。なまえの匂いだ。俺が一番安心する香りだ。


亀裂をなぞるように指を入れこんで、湿ったそこを行き来する。
しっとりと濡れはじめたために、滑らかに指が滑った。


「はっ、ぁ、」


短い、押さえ込んだ嬌声を聞いて安心する。
ああ、いつものなまえなのだ。目の前に居るのは知らない誰でもなく、ずっと傍にいた、愛しいなまえなのだ。


「逃げるな…、なまえ」



快楽から逃げようとするなまえの腰を強く抱えて指をすりつける。
控えめに主張した突起を親指で潰すと、押さえつけた腰が跳ね上がる。
甘い声が溢れる度に俺の身体が、脳が熱くなってしびれてゆく。


「っ、ゆう、とっ…!」



俺たちは確かにただの幼馴染みだった。
いつしか愛情が変質して独占欲に変わっていった。肉体と肉体の繋がりを求めて、彼女を『自由に』、『空を飛ばす』目的で始めて行為に溺れてしまった。
愛情は尊く、美しかったはずなのに。
今は異質な関係だけが残されている。


双方向の愛を求めて。


けれど、いつからか…。


「はぁっ、んん、んっ」


親指で陰核を擦りながら膣の中に指を入れた。十分に潤い、すこし粘着質な体液が俺の指を迎え入れる。
クチャクチャとあまりにも病的で卑猥な音がした。



「んぅ、ふ…ぁ、」



豪炎寺や不動から切り離し、俺だけが手の届く場所になまえがいるという小さな優越感と、なにもかもを彼女から奪おうとしている罪悪感。
どちらもせめぎあうが、今の俺を止められるものなどなにもなかった。むしろその逆で、煽られている気さえする。



「ふっ…ん…ぁっ!」



ぼこぼこした膣の上壁を、第一間接を曲げるようにして押すと中がきゅっ、と締まった。



「なまえはここ、弱いものな」

「うぅぅぅ…」



刺激に耐えるように唸るなまえをもっと喘がせたくて抜き差しする指を増やした。それと同時にもう片方の手での陰核の刺激も忘れない。





「やあ、ゆーと、それやぁああっ!!」

「好きだろう?中と外でされるのは」





両足をびくびくと振るわせて大きく鳴く彼女を見て指の動きを加速させていった。


お前の弱点を。

何人の男が知った?



それを考えるだけで無性に腹がたってくる。
いやいやと首を振るなまえに強引にくちづけて指をいっそう強く穿った。

「ひぁっ、ん、むり、もうっ、無理っ…!!」


涙目で訴えかけるなまえを無視して無理矢理攻め立てた。



「――〜〜〜〜あッ!!」



突然ナカが強く締まり、なまえが達したことがわかった。両足をピンと張り、声にならない声をあげて彼女はイッた。



ぐったりと力の抜けたなまえの瞳からは脱力や倦怠といった色がにじみ出ていた。
或はもっとべつの、諦念とかそういったものだろうか……。



しばらくなまえのその姿を眺めていてはっとした。
これではいままでのなまえと変わらないではないか。
フィールド上で駆け回る脚と希望を絶たれ、諦めに染まり、表情のない顔を隠すようにして無理に笑う彼女の姿と。
今まで彼女を犯していた男と俺は同じなのだ。
俺だけは違う、俺だけはなまえを分かってやれるという慢心の下に生まれた情緒の果ての理解だった。



同じなのか


俺も。





いや、

違う、違う、違う、チガウ








「くそっ…!」

「ひっ!」





力の抜けたなまえの腰を強引にたぐり寄せ、己の腰にくっつけるように近づける。
生温い性器と性器が触れ合った瞬間、なまえが小さく息をのんだのが聞こえた。
これだけのことをしてもなまえはもう俺を拒まない。
先ほどの言葉のために従順なのか、それとも。



「んっ……う、ぁっ………!」




諦めている、のか。




「ぁぅ、う、ゆうと、ゆっ、と、」




かき回される互いの体液。
ぶつかり、こすれて快楽を生むその行為だった。しかし身体はとまらないくせに脳内は完全に思考停止の様な状態だった。なまえの声すらまともに聞こえてこない。
殆ど会話のない状態で情事をするのなんて初めてかもしれない。
ときには軽口を叩き合う余裕さえあったあの行為がこれほどまでに壊滅的になるものなのか。



「やっ、やぁ、くるよぅ、なんか、あぅ」




なまえの両足をもっと開いて、より深くの挿入。
自然と彼女の腰の動きとシンクロしていくような訳の分からない感覚に陥っていく。
陰核とこすれて気持ちがいいのか、殆ど受け身だったなまえも俺に合わせていっているようだった。





「んん、ぁぅ、も、やっ、…あっ、いっちゃ、−………!!」

「………はっ、く……!」







強く締まるなまえの中で果てる。そのあともぐずぐずと何回か腰を揺らす俺になまえは気怠げに反応した。力のない声が聞こえてきた。
脳が考えることを拒否している。



あの日、初めてなまえを抱いた日。俺はなまえに『何も考えるな』と言った。
しかし実際何かを考えすぎ、その果てに考えられなくなったのは俺の方だった。
思考が停止するほど、或は、思考を拒否する程。
がらくたになった情緒達が頭の中で積み上げられてどうにもならない。
積み上がったゴミの間から漸くのど元まででかかった言葉を引っぱりだして機械的に告げる。




『なまえを永遠に、愛し続ける。なまえだけをずっと愛し続ける』







うつろななまえの瞳には、輪郭のはっきりしない俺が写っていた。








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