厭な夢を見たときは、いつも決まってナナシの部屋に行く。
真夜中だろうが明け方だろうが、俺が扉をノックすれば、眠たげな目をしながらも必ず彼女は微笑んで迎えてくれる。


ただ理由も聞かずに受け入れてくれて、その腕の中に俺を抱きとめる彼女は、同い年であるのに遥かに年上のように思えた。
ナナシはひたすら優しく、ひたすら綺麗だった。




今日も厭な夢を見た。
大きい波が来て、波に乗れるのは楽しいはずなのに、浜がどんどん小さくなっていく。
その浜にはナナシがいた。ナナシはあの優しい笑顔で俺を待っていた。
俺はどうしてもそこに帰りたいのに、波は俺を連れてゆく。どうがんばっても、ナナシの元に辿り着くことが出来ない。
ああ、いやだ!いやだ!と、もがいて必死で波をかき分けている途中で目が覚めた。


額ににじむ汗を拭ってベッドから起き上がる。
心臓が早く脈をうち、呼吸も少しだけ苦しかった。


おぼつかない足取りで向かう先は、やはりナナシの部屋だった。
ノックすると、少し間があいた後にナナシが出てきた。
部屋を照らすベッドライトの傍に本が置いてあったので、おそらく彼女はそれを読んでいたのかもしれない。

...あるいは、俺が悪夢を見ることを見越して起きていてくれたのかもしれない。



「ナナシ、」

「いいよ。さ、おいで」




いつものように情けない顔でナナシの部屋の前にたたずむ俺と、いつものように優しい笑みを浮かべて俺を受け入れるナナシ。
彼女は黙って俺の手を引いて、ベッドサイドまで連れて行く。
そしてあの柔らかな、優しい笑みを浮かべて両手を広げて俺を抱きとめる。

--その柔らかな笑顔で迎えられると、甘えずにはいられなくなってしまう。




「っ、ナナシ」



俺は強く強くナナシを抱きしめ返し、そのまま彼女のベッドに深く沈み込んだ。
同じ溺れるのでも、夢の中の海に一人で溺れるのと、布団の海にナナシと溺れるのとでは全く違う。
彼女の香りに包まれて、彼女の体温に包まれて、彼女の微笑みに受け入れられて、俺はただ深く深く沈む。


その優しい笑みを浮かべる唇に噛み付くように自分のそれを重ねて、彼女の体をまさぐる。柔らかな乳房を触るとナナシからかすかに艶のある声が聞こえた。
そのまま唇を彼女の細い首筋に這わせて舐めては吸う。
胸に顔を埋めると、心臓の鼓動も感じられた。

トクン、トクン、トクン。

ここにいる。
聞こえてくる鼓動が何故だかそう言っているような気がして、妙に落ち着いた。





「...条、介っ、」

「すっげー綺麗...」


少しずつ息が上がってきたナナシに構わず俺は行為を続ける。
間接照明に照らされ、暖かみのある色で浮かび上がった彼女の肉体は恐ろしいほど美しかった。
ピンと張った乳首に、感じてくれてるんだなと思いうれしくなる。
それに口に含めば彼女は切ないような声を上げるのでもっとうれしくなった。


「うぁ、」

「っはぁ、ナナシ」

「んぁっ!」


彼女の不意をついて下着の中に手を忍ばせると、そこは少しだけ湿っていて、その蜜と共に控えめに勃起した陰核を撫でるとナナシは体をふるわせた。


「急に、ずるい...ふぁ、」

「わり、どうなってんのかなって思って」


右手で下着に手をかけて、左手で彼女の腰を浮かせて、それを一気に引き抜いた。
少し開かれた彼女の足の間が露になり、少しだけ蜜が光を反射している。
それが俺を誘っているように見えてしまい、思わず顔を近づけ、そこに舌を這わせてしまった。


「ぃやあっ!」



彼女が一等大きな声を上げた。しかしナナシはそれを恥じるように、手の甲で口を塞いでしまう。
俺はもっとナナシの声が聞きたくて手の甲を無理矢理はがし、その手と自分の手の指を絡めてつないだ。


「あ、ちょっと..!」

「だーめ。ナナシの声もっと聞きたいし」

「いやだって恥ずかっ、ひゃぁっ!」


陰核を舐めとり、その下の穴に指を一本入れた。
舌の動きと指の動きが連動するたびに彼女の腰が浮いた。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音が響く。その音の原因は彼女の蜜なのか、それとも俺のだ液なのか。全く区別がつかない。多分両方だろう。


「じょ、..すけ!条介ぇっ!」

「ごめん。俺あんま余裕ないわ」

「んっ、いい、よ...」




赤みを帯びた頬で、色っぽいのに優しい笑顔で、いつものようにナナシはおいで、と言う。
俺はそれに抗えないまま---誘われるように、スボンからいきり勃つそれを取り出して彼女に宛てがった。
ぐぷぐぷとおよそ可愛げのない、しかしいやらしい音をたててソレは彼女のナカに沈み込んでいった。
ナナシのナカは暖かくて柔らかかった。まるでナナシそのものだと思った。




ナナシと出会って、つながる事の気持ちよさを知った。
男と女ががんばってこんなに気持ちよくなることがあるなんて知らなかったから。
これもひとえに、心からナナシが俺を受け入れてくれてるからだと、思う。

ゆっくりと体温を味わうように、ぐずぐずと腰を動かしていたい時もあるし、勢いまかせにむさぼってしまいたくなる時もある。
そんな緩急を繰りかえしながら、俺とナナシは頂上へとぐんぐん昇り詰める。
繋がっている部分が解け合っているような気がして、
俺とナナシは、もしかして一つの個体だったんじゃないだろうか、なんて馬鹿なことを言ったら「そうかもしれないよ」と彼女が余裕のナイ顔で言うものだから。


「ごめっ...はぁ、俺もう駄目だわッ..」

「ん、いいよ、あたっ...しも、もう、ーーーーーー!!!」


仰け反るナナシの体をぎゅっと抱きしめて、
たまらなくなってナナシのナカに放出した。
俺の体液とナナシの体液が混ざって本当に溶け合っているような感覚に襲われる。



ナナシのような綺麗な女の子のナカに。
俺が、俺の一部が溶け合う。



乱れた息を整えつつも、俺はまだ彼女のナカでぐずぐずととどまって、その胸をちゅうちゅうと吸い立てる。
そんな俺の頭を撫でながら「条介は甘えたくんだねえ」とまた優しく、いつまでも優しく笑う。







「夢のなかで、俺はいつもみたいに波に乗ってたんだ。だけど、ナナシがいる浜が、どんどん遠くなってった。ナナシのいない所にいくなんて、いやだよ」

「大丈夫、なんにも心配はいらない」


いっしょにいるよ。そういって彼女は柔和に笑う。
そして俺の鼻っ柱の小さくキスをくれた。
彼女の言葉には何故こんなにも説得力があるのだろうか。
彼女が大丈夫と言えば、この世界の何もかもが大丈夫のように思えてしまうのだ。







彼女の殻につつまれた蛹







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