※ヒロイン死んでます










あの時私がもっと素直になっていたら彼女は今頃、空に上っていたことはなかったかもしれない。



何故私はあそこまで自分自身を見失うことができたのだろう。
たとえそれが誰かの野望のために躍起になっていたとはいえ、自分のプライドや信念を突き通すぐらいのことはその時の自分にも出来たはずだ。
いや、むしろそのプライドや信念の所為で自分自身を見失っていたのだろうか。



だが、今更回顧したところでどうにもならない。
彼女は帰ってこないのだ。





灰色の雲がたれ込める空に、白灰色の煙がゆらゆらと上って行く。
ナイフの切っ先を突きつけられているような張り詰めた寒さに、自分の吐く息が白んだ。



「この口で―――」




地球人は馬鹿で野蛮だと罵りながら、誰よりもその姿に憧れていた。
地球人的であることを嫌いながら、その行為を忌避しながら。



ナナシが好きだった。
つながっていたかった。
抱きしめたかった。
口づけをしたかった。



愛していると、言いたかった。




一見すると等間隔に並べられたロッカーのようだ。
四角い扉の中から救急担架によく似たシルバーの台が彼女を乗せて出てくるのを待っている。
誰も彼もが黒を纏うこの空間で、彼女の遺影だけが妙に色鮮やかだった。
それがかえってナナシがもうここに、この地球上に存在していないという事を際立たせているようだった。
ああ彼女は本当に宇宙人になってしまった。



気づくのが遅すぎた。
自分が人間だということに。
目が覚めるのが遅すぎた。
宇宙人を演じているだけだということに。



炎に包まれて昇って逝く彼女はもう二度と微笑むことはない。
写真の中の笑顔はまるで嘘のように、跡形もなくなってゆく。
彼女の友人だった者、チームメイトだった者、皆が皆思い思いの涙を流す。
香の香りと、百合と菊と、そして彼女が灰になった匂いが混ざり合って哀しみを増幅させるようだ。
この、あまりに人間から離れた...そしてあまりに人間的な匂いが。




人間であるという絶対のアイデンティティを持っていた彼女はそれを証明するようにこの世界から消えた。
いなくなる直前『わたしは地球人だから、脆い人間だから』とうわごとの様に呟いた彼女の後ろ姿が網膜に焼き付いて消えない。
いくら目を瞑れども、まぶたの裏をスクリーンにするようにナナシが写り込む。



ああ。




宙に舞った彼女をエイリア石は助けてはくれなかった。








涙さえ出てこない。親しいものが亡くなった時に涙を流すのは人間の特性であったはずだが、『涙を流せない程の哀しみもあるの』と、いつだかナナシが言っていたことを思い出す。
やはり私も人間で、人間のようでしかないのだ。
いつまでも宇宙人のまがい物でいるわけにはいかないのだ。





人々が呆然と立っているその場所から離れる。
ポケットに入っていたライターを掴んで、マフラーの様に巻いていた自分の髪をほどきそれに近づけた。

かちり、とスイッチを入れると、
燃える髪と煙突から吐かれる煙は同じ匂いであることを知った。






ああ。
あああ。




私は。








人間合格















暗い