優しいという漠然とした理由だけで男を選ぶのはかなり間違っていると思う。
まあ、こんなのはあたしの持論にすぎないんだけど。
優しい男から優しさをとったらなんにも残らないし、優しいだけなんてただのヘタレかもしれない。
優柔不断ってことばにも、ほら優しいってついてるみたいに。
欲張り言うな、と言われることも多々あるけれど、『優しいだけではだめ』というのは正論だと、あたしは思う。



「バーンはあたしに優しくないね」
「はぁ?なに言ってんだナナシ」
「だってほら、女だからって甘えんなっていうし練習メニューキツいし雑用やらせるし」
「お前そりゃチームメイトだったら当たり前だろうが」
「そうでした。」


その点バーンはすごい。
確かにチームのキャプテンとしては優しいとこも少なからずあるけれど、
女だからって容赦しないし優しくないし。
つまり、女だからって贔屓することもなければ
不当な扱いをすることもない。
敵のチームだったら女も容赦なく潰すのがバーンのやり方だ。
もしあたしがバーンの敵で、バーンが率いるチームと対戦したら
真っ先に潰されるだろう。



「可哀想に。ルーシーもジェニーもサチコもハナコも、みんな優しい男に騙されてたんだわ」
「さっきからお前何言ってやがる。頭でも打ったか?」
「打ってないよバーン君。新聞のコラムを読んでただけ」
「・・・その呼び方やめろ」


読みかけの新聞に目を戻して再び文字を追う。
今週の生活面の特集は、『暴力に晒される妻たち』。
うわ、何このゴシップみたいな内容!と思いつつついつい読んでしまい、
そこに登場する彼女たちは優しいと思っていた男に騙され、暴力に晒されている(あるいは、いた)ということを知った。
それを読みながら ほらねーあたしの持論は正論じゃないか、
と少し得意げになっていたら、バーンが興味ありげにしてたから話しかけたのだ。
(第一声が『優しくない』なんて、自分でもどうかと思ったけど。)


「バーンは優しくないけどその分信念があるからねー。優しい人よりも、信念を曲げない人の方が好きだな、あたしは。」


ぺらり、と次のページに進もうとしたら急に視界から新聞が消えた。というよりもバーンがかすめ取ったた。
あたしの両腕にピシっと拡げられた新聞紙は、今ではバーンの右手のなかでくしゃくしゃだ。


「・・・新聞買ったのはあたしなんだけどな、バーン」
「ナナシよぉ、自分で何言ったかわかってんのか?」
「(無視ですか)何って・・」
「信念のある人が好き、とかよ」


しっかりとバーンと目をあわせると、
そこには普段の他人を見下したような目線はなくて、
その代わりに真剣な眼差しがあり、いつもは勝ち気な弧を描く唇は一文字に結ばれていた。
久しぶりに見る真剣な顔のバーンに思わず気迫負けしそうになるけども、頑張ってバーンを見つめ返す。


「なァ・・」
「言ったね。そんなこと。うん。」
「お前つまり、」
「うん、そうだね。」


「あたしはバーンが好きだよ。」



優しくもないし贔屓もしてくれない君が。
それでも信念を曲げない君が。

真直ぐに視線を反らさずに言い切ると、バーンは少しだけ耳を赤くして
ぴしゃり、とあたしの顔にくしゃくしゃの新聞紙を投げつけた。


確かにあたしは欲張りかもしれない。
それでもあたしは優しいだけじゃだめなのです。優しいだけでなく、バーンみたいな強さと厳しさと、少しの頑固さが欲しい。


照れ隠しをするバーンがかわいくて、あたしはついついほんのり赤い耳にがぶりと噛み付いた。










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