臨也さんの大失敗




俺は絶頂を迎えようとしていた。
もうすぐ、そこ。それがわかる。

(いやでも、ダメだって)

ギリ、と奥歯が鳴った。
堪えろ堪えろ堪えろ自分。
でも、だってさ、こんなに気持ちがいいなんて。
挿れただけで達しそうになる自分を叱咤する。
これは、もちろん体感によるものもあるだろうが、心が満ち足りているからかも知れない。


俺は、今、初めて帝人君と繋がっていた。
俺が初めて、この世で1番愛しているといっても過言ではない存在、帝人君と。

彼に愛を伝え続けた日々は随分長かったと思うが、一瞬のようにも思える。
ようやく手に入れた。
僕も好きです、と頬を赤らめながら言われた時は本当に幸せだった。

そして訪れた蜜月。

最初はクールに、俺も大人なんだしまだまだ子供の彼に盛るわけにはいかない、そういうのはハタチになってから。
なんて、その時の俺は今思えば赤面して土下座までしたいくらいの厚顔無恥野郎だ。
だけど、しばらくすると彼のシャツからはみ出た鎖骨だとかうなじだとか、定番のムラムラポイントに悶々とし始めた。最低な大人だ、だが元から最低だったと開き直る。

なけなしの理性で何事もないように接し続けたが、ある日、帝人君がこう言った。

「…臨也さんは、僕と…その…し、したいと、思わないんです、か」

涙目で俺を見つめる彼に、俺は盛大にコーヒーを吹き出した。
(帝人君がせっかく煎れてくれたコーヒーだったのに、もったいない事をした)

「いきなり、どうしたの」

口元を拭い、なるべく平静を装って笑顔で聞いたつもりだったが、きちんと笑えていたかは定かじゃない。

「だって、付き合ってもうしばらく経つのに…臨也さん、何もしないじゃないですか」
「帝人君…」
「やっぱり気持ち悪いです、よ…ね…」

言いながら今にもぽろりと涙がこぼれそうなくらい、目に涙を溜め悲痛な横顔をした帝人君を思わず抱きしめた。
なんて愛しい。
大切にしよう大切にしようと思う気持ちが強すぎて、よそよそしくなっていたのだろうか。
ごめん帝人君、ごめん。

ひとしきり謝って誤解を解くと、彼は自分の言った言葉に今更ながら照れ始めた。頬をほのかに赤く色づかせて、俺の胸に顔を埋める。

これはGOサインにしか取れないだろう?

いくら紳士を気取っても所詮、俺も狼だったというわけで。
そして、今こうして帝人君と繋がっている。


(参った、本当に参った)

快楽に浮かされた顔を見ているだけでも、相当くるものがある。だからと言って、目を閉じてしまうのも惜しい。
(本当ならカメラやビデオまで回したいが、今は網膜というフィルムで我慢。)

回想に浸る事で、幾分か意識をそらせたがきゅう、と締め付けられる度に戻ってくる。
ぐう、と唸り声が出た。

甘い喘ぎ声一つでイきそうだ。
正直過去に受けたどんな責め苦よりつらい。

(帝人君はイってないから、俺だけ気持ち良くなるわけにいかないし…こんなに早くイクと早漏だと思われる…)

藁をもすがる思いで無心になろうとした時、ある事を思い出した。

(確か、嫌いな相手を考えると少しは萎えるって聞いたな…)

思いながらも、脳裏に浮かんだ金髪に気持ちが下降する。
正直、こんな時にアイツの事を考えるのはごめんだが。

「ひゃ…んっ、あぅ…あ、あっ…」
「くっ…」

背中に電流のように痺れが走る。どうやら、背に腹は変えられそうにない。

(あーもう、ムカつくけど仕方ない…シズちゃんシズちゃん平和島静雄…お、いい感じに萎えてきた)

帝人君の中へと律動を繰り返しながら、俺はアイツを頭に思い浮かべた。

(シズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃんシズちゃん…)



「シズちゃん…」



無意識だった。
本当に無意識だった。
必死になりすぎて、俺はその名前を口に出してしまった。

空気が硬直する。
ピシリ、そう音がした。



その後、帝人君はいくら弁解しても一週間一切、口をきいてくれなかった。

(帝人君、ねぇ!聞いてよ帝人君!)(………。)(誤解だから、あれは本当に誤解だからぁあああ)






(20110328)
臨也さんざまぁwww





戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -