ある世界の創世説話




…この世に、『人間』という生物が誕生した時のこと。

数人の神々の手の平の上で、数多の人間が生を受けた。

彼らは神々が創った世界の一部であり、大部分でもある。

神と比べれば何の力も持たなかったが、現存しているあらゆる動植物にはないものを持っていた。

それは、何かを考えて、何かを感じる能力だ。

人間は神々の手の平の上で、試行錯誤しながらも新しい世界の中で呼吸する。




神々は、自ら作り出した人々に、それぞれ一つずつ、贈り物をすることにした。

我が子も同然な、彼らを慈しんで。






人々に『新しい世界』を造った神は記す。

“美しい自然、麗しい生命が途絶える事なく育まれることを願う。
我が手の平の中のものよ、いつかは我らを離れてゆくだろう。
その運命[さだめ]を受け入れ、我らは快く手放そう。
我が手の平の中のものよ、世界の一部であり全部であることを誇りに思うが良いであろう。”
と。








人々に『無垢なる命』を注いだ女神は笑う。

“生きていく事は素晴らしきこと。
自ら死に行く事は愚行です。
生きる、という事は全ての人間に平等に与えたもの。
優劣などありません。
己が己を越えようと努力することによって、幸福が生まれるのです。”

と。









人々に『糧となる物』を与えた神は呟く。

“生存シ続ケル為、糧ハ必要不可欠。
多少デ争ワズ、皆平等ニ分ケ与エルモノ。
ソシテ、糧トスルモノハ必ズ犠牲ガアル事モ忘レルナ。
吾カラハ皆ガ活動シ繁栄ヲ成シエテ行ク事ヲ祈リ、十分ナ糧ヲ贈ロウ。”

と。











人々に『他人を想う心』を備わせた女神は奏る。

“隣人を粗野せするところ、誠に邪なる事。
又、悪事起こせざるところも然り。
常に隣人を想い、善行を挙行する事こそが重要。
其の心、清らかで在れ。”

と。









人々に『生きる知恵』を授けた神は説く。

“考える事は力である。
それは己の意志を貫くための強い武器になるであろう。
勿論、知恵とは皆同じとは限らず、異なる類の考法を秘めている可能性が充分有るのである。
時には己の知識を過信せず、知識を持ち寄ることも重要である。”

と。











人々に『純情なる愛』を伝えた女神は謳う。

“和平を深めるよりも、さらに強い繋がり…それを愛と呼びます。
お互いに愛し合うことで、更なる幸福を手に入れることでしょう。
拒絶を決して恐れずに、相手を愛することを大切にしてください。”

と。











人々に『強き意志』を与えた神は叫ぶ。

“迷う事を恐れる、ということは、自らの進む道を閉ざすことと同じである。
進まず立ち止まることに、繁栄が訪れることはない。
幸福も遠退いてしまうだろう。
そうならぬ為にも強き意志を持ち、志高くあれ。”

と。








神々は人々に贈り物と大切な言葉を残した。


そして、人々が一度目の大きな繁栄を遂げた時、その世界は神々の手を離れた。


人々は、神々が残した贈り物に感謝し、生きていく。
世界の全てに目を向け、命を大事に生き、糧となる犠牲に感謝し、心を自由に動かし、愛を大切に育み、意志を高く持った。


何度も何度も進化し、人々は繁栄を遂げた。

神々に最初に生み出された人々は息絶え、彼らの子達が世界を引き継いだ。




…しかし、新しい世代に生まれ変わるにつれて、人々が神々に対する感謝は薄れていく――――…









end



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