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王廟の中央の階段を登った先の台座に石版を置くと信託の石版が出てきた。コレットが手を置くと神殿への扉が開いたがどこからか風が吹いているらしい。今までは閉まっていたし出口があるというわけではないだろう。...多分。
ここは他の神殿よりも仕掛けが多い。ロイドとコレットとリフィルは楽しそうだが俺とジーニアスとクラトスは辟易してきた。
「なんかコミカルだよなー!」
「色々飛び出してきて楽しそうだよね〜」
「針に刺さってたのしいのか?」
「「そんなことないです...」」
「三人は楽しそうだけどボクもうここから出たいんだよなあ...」
「全くだ...」
「俺も同感」
ふ、と風の流れが変わった気がした。まるで入口から誰かが来ているようだが今は封印開放が先だ。また入口に戻るのだからどうせ後から出くわすだろう。守護者との戦闘の前に気を散らしても良くないだろうし。
炎と水の神殿でも見た台座から嫌なマナが集まるのを感じる。
そして現れた守護者の姿をみて嫌な汗が流れた気がした。守護者である魔物、ハスタールの姿にはどこか既視感を感じるのだ。鳥のような足でロイドを蹴り飛ばす姿も追撃と言わんばかりにクラトスに羽を飛ばす姿も、何もかも。
ばちりとこちらと目が合った瞬間、にたりとあいつが笑ったような気がした。
「何故笑う。お前は俺の敵だろう。」
ぼそりと呟いたはずだった声にハスタールは返してみせた。ロイドたちからは聞こえないような音。風の一部にしか聞こえなかっただろうが自分には、恐らく自分「にしか」分からないのかもしれない。
「ルクラス、ちゃんと避けてよね!ロックブレイク!!」
ジーニアスの声だ。マナが集まり、ハスタールの影に大地の色の魔法陣が展開される。確かに巻き添えは御免被るな。
バックステップで後方へ下がった瞬間、ハスタールは岩に貫かれ、マナとなり拡散した。
「待て!」
聞き覚えのある声だ。やっぱりか。
しいなに生きてたんですね!とニコニコ笑顔で近付いてくるコレットに動くな物に触るなと焦るのも彼女らしいと少し面白く思いながらもあちらはそうではないのだろう。しいなはコレットの命を狙っている。傭兵と称しているからにはコレットを守らなければならない。
「さて、今回は俺がお相手しようか。」
「あんたは!」
「前よりあいつらは強くなってるぞ。しいな一人では太刀打ちできない。」
ぎり、とこちらを睨みつけるしいなを見返す。彼女の札をまともに喰らうのは良くない。槍で札を使わせないように腕を中心に払っていく。
「しいな!」
「コリン!?」
「久しぶりじゃないか、コリン。元気か?」
「うるさい!今はしいなの敵なんだろ!」
フレンドリーに接したはずなのにこの態度。冷たいものだなあ、と笑ったがコリンは笑ってない。
体全体を使っての攻撃に不意を突かれたが所詮は精霊になって間もないだけなのだ。場数はこちらが上だ。マナを少しだけ込めて壁へ蹴り飛ばしたコリンは動けないらしい。ごめんしいな!とだけ残して煙を上げて消えた。コリンへ意識が向いたしいなも槍の柄で峰打ちを決めるとその場に沈み込んだ。式神も時期に決着が着くだろう。
遺跡の近くで野営。いつものことだ。だがコレットは違う。
ロイドとコレットの会話に耳を傾けなくても分かる。封印を解放していく度、コレットのマナが作り変わっていくのが分かった。火の神殿では偶然か勘違いかと思っていたけれど何度も同じことを繰り返して確信した。天使は、人ではなくなることだ。
「ルクラス」
「クラトスか。どうした?」
「お前、何故あの暗殺者に止めを刺さなかった。」
何故だ、と。クラトスの目は冷ややかだ。
「あのとき、お前は手を抜いていた。あそこで止めを刺しておけば神子は今後命を狙われるというのに、だ。」
「何事にも試練は必要だろう?こちらの目的が完遂するまで彼女は執拗に狙ってくる。それでいいだろう」
「こちらの経験を積ませるため、とでも言うのか?あまりにリスクが高い。」
「封印解放の旅自体、ハイリスクの塊だろう?今更暗殺者如きの些細な問題に手をつける暇があるか?次の封印の場所へ向かうためにも、今日はゆっくり寝てようぜ?」
「…そうするか。今回はお前に乗ってやるとしよう。」
これ以上険悪な雰囲気作ってどうする。少なくとも神子には負担をかけるわけにはいかないのだと俺もあいつも分かっているからこそここは引いた。
しいなが引く時に残した言葉は大きなヒントになりえる。正義と悪が表裏一体であるようにこの世界もまた然りなのだから。
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