交響曲の願い(TOS小説) | ナノ

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間欠泉の合間から石像が見えた。恐らくあれがスピリチュアル像だろう。ジーニアスが氷の魔術で間欠泉を短時間だが止めてその間に運動神経が良いロイドが手際よく像を回収して戻ってきた。
像が手元に来たことにひとしきり喜んだあとにコレットが看板の裏にある岩のようなものに気付いた。

「あれ?これ前にも見たような…」
「これは!!神託の石碑ではないか!!」

「うおっ!どうしたんだリフィルの奴…」
「あれ、ルクラスって姉さんの遺跡モード見たことなかったっけ?」

突然様子が変わったリフィル。なんというか、近付いたらヤバい。本能かなにかが感じ取ったのか無意識に一歩下がる。
遺跡モードというらしいあの様子は今まで見たことないぞ!!と半ば叫んだようにジーニアスに答えると少し考える素振りを見せてから口を開いた。

「そっか、火の神殿の奥地の時にもこんな感じだったんだけど姉さんが落ち着いてから来たもんね。ルクラスは。
うーん…完結に言っちゃうと遺跡や古い考古学関係の品物とかそういうのを見るとああなるんだ。まるで人が変わったみたいだからみんな遺跡モードって呼んでるんだ。」
「へー…そういう人もいるんだな」

ジーニアスから遺跡モードの説明を聞きながら興奮しきった口調のリフィルに促されるまま、コレットが石碑に手を添えると岩の壁から石碑の真ん前まで光の橋が現れた。

「なるほど、あそこよく見たら洞窟の入り口みたいだな。これが水の神殿ということか。」
「くくく…さっそく調査に向かうぞ」
「調査じゃないだろ調査じゃ…」






















水の神殿というだけあってどうも水気が多い。ソーサラーリングも水を放つものになり、ロイドは楽しそうに水鉄砲を連発している。魔物に当てれば動きを鈍らせることもできるのでなんだかんだいっても重宝する。

「ルクラス、だいじょぶ?」
「さっきの魔術か?大丈夫大丈夫。心配すんな」

自分で回復させてるから、となんでもないように手を振ったが実際はかなり辛い。
周りは水のフィールドの上敵は水の魔術を放ってくるので、自分の場合一度負傷すると炎の不死鳥という性質上からか治癒力が人間よりかなり落ちる。さっき左腕に魔術を喰らったから痺れてうまく動かせないし。早くここから出たい。










ワープを抜けた先、奥の祭壇にざわざわとマナが集まってゆく。嫌な水のマナだ。

人魚のような姿をしたノーディスと二体のヴーニスは魚の尾ひれのような尾を振り回して相手を牽制して隙があれば強力な水の魔術を放ってくる。
ノーディスはロイドが、ヴーニスは俺とクラトスで対峙している。実力が確かについている彼等なら、きっと。

「シャープ!」
「ライトニング!」
「おっ、サンキューな二人とも!」

ライトニングは雷属性。水属性には相性が良いらしく怯んで動けないヴーニスにシャープで火力を底上げされた槍を叩き込む。

「滅殺旋風牙!」

地面から発生された竜巻に飲み込まれたヴーニスは耐えきれずに悲鳴を上げるとそのままマナに分解されて四散した。
なんとか魔術は喰らわずに倒せたか、と少しだけ安堵してロイドを見やる。当の本人は止めのときに放たれたコレットのエンジェルフェザーで相手を倒されて少し呆然としていたが。













炎の神殿と同じようにコレットが胸の前で手を組んで祈りを捧げる。ふわりと羽が映えたコレットとレミエルは二三言だけ言葉を交わすとすぐに消えてしまった。

「次は北…か。終焉を望む地の祭壇…」

また三人で目的地の話し合いだな、と思っていると神殿を出たところで目の前のコレットがふらりと揺れた。倒れるコレットに駆け寄ってなんとか転倒を防ぐことができた。ナイスキャッチ俺!まあ喜んでる場合じゃないけど。

「先生、コレットが!」
「すぐに休ませましょう。封印解放の度にこれだと彼女も辛いでしょう」
「あー…ここだと宿屋無いんだっけ」
「夜営の準備をするか」

観光名所ではあるけど大体は間欠泉を見たらすぐに帰るような所だし宿屋なんて無いのだろう。謝るの禁止な!と言うロイドにまた謝るコレットを見ながら各々で夜営の準備を始めることになった。




















「んー…空が綺麗だ」
「ルクラス、ちょっといいかしら」
「なんだよリフィル」

夜空を眺めているとリフィルが近づいてきた。弟はどうやら寝たらしい。俺の左側に座るとそのまま左袖を捲られた。
晒された左腕は青く変色していて自分ですら見てて少し痛々しい。リフィルは顔をしかめるとそのまま治癒術をかけた。ふわりと光が集まって痛々しい腕は少しだけマシになったような気がする。少なくとも痺れはひどくなくなっている。

「さっきの戦闘の時に左腕を庇っていたようだったから気になったのよ。多少はマシになるかと思ってシャープをかけたのにあんな大技出すとは思わなかったわ」
「誰だってあのときは頑張ってたし俺だって多少はな?まぁ…お前らに着いていくようになって怪我するようにはなったけど」

笑いを溢す俺に、呆れたとリフィルはため息を吐いた。普段の戦闘でも魔物によく狙われるせいで多分このメンツの中で一番怪我が多いのは俺なんだろう。どうも守りながら戦うのは難しい。
一人旅の時は何も気にしなくていいので戦闘はすぐ終わるから傷を負うなんてことはそうそう無かったし怪我をしたとしてもすぐに治ったためにそこまで気にすることが今でもない。パルマコスタでもそうだ。あの時の傷はきれいさっぱり消えていて今は見る影も無い。今回は状況が状況だから完全に消えるにはまだ時間はかかるだろう。

「あなたは冷静かと思っていたけれど、意外と無茶をするのね。」
「コレットやロイドがかわいくてなー。人懐っこいしまるで弟や妹ができたみたいな?そんな感じがするよ。」

向けられた自然な笑顔がどうにもくすぐったい。少しだけ心の明るいところを打ち明けた。意外だったのか、リフィルは目を少し見開いた。

「なんていうか、きょうだいがいたらこんなのかなーってさ。今までは一人でちょうどいいって思ってたけど今はリフィルみたいに弟がいるのが少し羨ましいよ」
「ふふ、自慢の弟だもの」

少し誇らしげにリフィルは笑う。贔屓目抜きでも彼は本当によくできた弟なのだろう。というかジーニアスがいなかったら俺らは多分倒れていただろう。主に料理の面で。
羨ましい、とはいったものの彼らは俺の正体を知ったらどうするのだろう。もしかしたら、という僅かな期待とやっぱり駄目だろう、という中で揺れ動いているせいでここから離れられないのも理由の一つだった。今はまだ彼らの前では普通のエルフとして居たいのだ。


今は、まだ。


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