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水の神殿があると見ているソダ間欠泉への遊覧船乗り場に着いた。受付嬢に話すと神子様からはお代はいらないと言い、タダで乗せてもらえることに。
「…なんでタライなんだ。」
「そういう場所なんじゃない?タライならインパクトあるし良い観光名所になると思うけど」
ロイドの突っ込みに冷静に返すジーニアス。当たっているからこそなんともいえない気持ちになるんだよなぁ…
「先生?そんなとこでどうしたの?」
「わ、私はここで待ちます。さぁいってらっしゃい」
どもりながら言うリフィルにはもちろん皆が違和感を抱くわけで。私は乗りませんの一点張りじゃあなぁ…
「今更行かないって訳にもいかないだろ、リフィル」
「…きゃ…」
ぐいと腕を掴むとまさかのきゃあ発言。俺を含むみなが思考停止してリフィルを見る。当の本人はしかめっ面だ。
「先生、まさか…水が怖いとか」
「きゃあ楽しみ!と言いかけたんです。」
意地っ張りだな、なんて笑ってる場合じゃない。俺も水は得意な方ではないのだから。
「…私の顔をみてどうかしたのかしら」
「いや、まさか水が怖いなんて思ってなくてな」
タライがけっこうな大きさで二人一組で乗ることになり、ロイドとジーニアス、クラトスとコレット、俺とリフィルの組み合わせになった。というのも俺がタライに乗ることを知っていたことがバレてしまい、それならとタライに乗って暴れるリフィルと組まされてしまったというわけで。
今はある程度大人しくなったが今度は背中にくっついて逆にタライを動かしにくい。あとジーニアスからの視線が痛い。少年よ、これは君の姉からやってきているんだよ私はなにも悪くありませんよ!!再び前に視線を戻してタライを進める。早くソダ間欠泉に着いてくれ。
「おかしいなら笑ってくれても構わないわ」
「別に苦手なもんくらいあって当然だろ。…にしてはトラウマかってくらいの怖がり具合だけど」
そう言うとリフィルはびくりとして俺の背中を軽く叩いた。彼女になにがあったかなんて知ろうとは思わないけどここまで元気がないとこっちも声をどうかけるか迷う。
「…前は船酔いであんな気分が悪いと思ってたけど水が苦手だからなんだな」
「気付いてたのなんてルクラスくらいよ。…ジーニアスにも気付かれなかったのに」
「そういえばジーニアスもあんな顔してたもんな…ヒトなんて昔っからよく見てるし、俺くらい長生きしたら誰だって分かるんじゃないかね」
「よく言うわね。エルフでないというなら一体あなたはなんだというのかしら」
軽口に反応した。少し前までは返事さえしなかったのだからやっぱりそれなりにましにはなっているかもしれない。
「返事できるくらい元気なら教えてやるさ」
顔だけリフィルの方に向けてにやりと笑うと顔の近さに今更気付いたのかびっくりした表情をした。離れようにも動けばタライが大きく揺れることを嫌でも分かっている以上動けないのだろう、みるみる顔が赤くなるのを見るのはとても楽しい。
「俺はな、化物だよ。」
耳元で囁くように。まるで恋人が愛の言葉をこっそり伝えるように。内容はそれとは程遠いが。
「この旅が終わればきっとお前らの前から消える。ヒトから忘れられていくべき化物、それが俺の正体さ。」
それだけ言うと前を向き、間近になったソダ間欠泉を見やった。
「先生、大丈夫か…?」
「やっと…着いたのね…」
疲れた表情のリフィルを眺めながら貴重な経験だったなと笑うクラトスに俺も少し笑った。
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