青空颯斗 | ナノ



部屋には甘い香りが充満している。甘い匂いの原因は、テーブルの上に置かれた彼女からのチョコレートからなのか。それとも、彼女から漂う女の香りなのかはわからない。
それくらいの甘い匂いが颯斗の鼻腔をくすぐっている。

「今年は手作りなんですね」
「うん。ちゃんと自分の手で作ってきたよ」

颯斗は一粒のチョコを口に入れる。柔らかい感触。生チョコだったら失敗しないはずだから、と月子は顔を赤くして彼の感想を待つ。
ごくり、と飲み込む音が月子の耳に入る。颯斗は閉じていた瞳を開いて、

「苦いですね」
「えっ」
「ココアパウダーが強すぎます」
「……でも、私が食べたときはそんなに苦くはなかったはずなのに」
「時間がたってしまい、パウダーがチョコに浸透して苦くなったのかもしれませんね」
「そ、そんなことはないと思うんだけど」

月子は試しに一粒箱から取り出し、食べようとした。しかし、その手は颯斗によって止められてしまった。
どうして止めるの、と月子は彼に尋ねる。颯斗は答えずに彼女が手にしたチョコを口に含んだ。生チョコは溶けやすいため、月子の指にもついてしまう。それも、丁寧に颯斗はなめ取っていく。
その動作がとても官能的で月子は思わず顔をそらしてしまう。すると、彼女の頬に颯斗の手が添えられて、強制的に戻され、月子の視線と颯斗の視線が交差する。

「恥ずかしがっちゃだめですよ、月子さん」
「だって……」
「だってではありません。……それにしても、月子さんの指ごと食べたからでしょうか。ほんのり甘い味がしたような気がします」
「えっ……」
「指だけではなく、月子さんの唇から口移しで食べさせていただいたらもっと甘くなるんでしょうか」

颯斗はにっこりと笑顔を浮かべ、月子の唇をそっとなぞる。その感覚に月子は背中がぞくりとなった。
ちょうど月子はソファーに座っていたため彼から逃げることができない。それを知っての上か、颯斗は月子との距離を縮める。
そして、チョコを一粒とると月子の唇に押し当てる。

「……口を開けていただけませんか」
「………」
「頑固ですね」
「………」
「どうしても口を開けたくないというのなら、こちらにも方法があります」

颯斗はチョコを口に含む。そして、月子の顎をつかんで固定させると彼女の唇を奪った。
息をするため、わずかに開いた月子の口の中に舌をうまく使って颯斗は口移しでチョコを食べさせる。
月子の中に苦い味が広がる。確かに颯斗の言うとおり、ココアパウダーの苦味が強いなぁと思う。しかし、苦いと思ったあとに甘い味が口に広がる。これは、チョコが持つ本来の味なのかそれとも、颯斗がチョコを与えることによって生まれる甘い味なのか。
月子の口の中にあったチョコがなくなったのを颯斗は確認するために、彼女の口内を舌で犯していく。時々音を立てるのはわざとなのだろうか。二人しかいない生徒会室にその音は大きく響く。

「ん……。ちょっと、颯斗、君……」
「あぁ、少しやりすぎましたか。大丈夫ですか?」
「……馬鹿」
「馬鹿とは失礼ですね。でも、甘くなったでしょう?」
「表面のココアパウダーが苦くて、中のチョコは普通に甘かったよ。だから、く、口移しで食べさせてもらっても味は、変わらなかった……よ」
「顔が真っ赤だと説得力がありませんよ。でも、僕が甘く感じたのでよしとします」

満足そうに颯斗は笑った。その笑顔を見て月子は微笑んだ。颯斗君には笑顔が似合うよ、と。

「こうやって笑顔でいられるのも貴女のおかげですよ、月子さん。感謝しきれないぐらいです」
「また……そうやって私をからかうんだから……」
「からかってなんていませんよ。本心です。……まだ、生チョコは残っているようですね」

少し多めに作ってきたのは確かだ。二人でゆっくり食べていけばいいよ、と月子は言った。しかし、颯斗は月子とチョコを交互に見て、何か面白いことを思いついたのか薄く笑った。
月子はその笑みを見て嫌な汗をかく。
じりじりと颯斗は月子に近寄る。元々月子には逃げ場などは無い。颯斗はそっとソファーの背もたれに手をつけ、月子を腕で囲む。そして、右腕でそっと彼女のリボンのピンをはずして、リボンを解いた。

「は、颯斗君!」
「別に何も悪いことはしませんよ?」
「いや、しているって」
「……安心してください、イイコトは最後までしませんから」

ねっ、と月子の唇に優しく人差し指を当てる。颯斗にそうされてしまったら、月子は何も言えない。そのまま颯斗は月子のブレザーのボタンと、ブラウスのボタンを少しだけはずす。そっと、首筋を指で触れると、月子はビクリと体を震わせる。
首周りが広く開いた状態で、颯斗はそこに生チョコを押し当てる。柔らかいため、ほんの少し力を入れただけで形が崩れた。
溶けたチョコが制服に付かないように颯斗はその部分に舌を這わせる。それがくすぐったくて、月子は刺激から逃れようとするが、颯斗に体を固定されてしまって身動きが取れない。

「やっ……」
「逃げてはいけませんよ。今日は、バレンタインなんですから。月子さんを味わってもいいと思うんですが」
「何、その理屈……」

下から月子を見上げる颯斗はとても美しく、彼の唇から垣間見える舌がとても妖しく見えた。
そして、再び颯斗はチョコを手に取る。月子は何も言わない。抵抗しても無駄だとわかっているからだ。颯斗は手に取ったチョコを口に含むと、再び月子の唇を奪った。
苦いココアパウダーの味が口に広がったかと思えば、甘いチョコの味と侵入した颯斗の舌が月子の舌と絡み合う。
今度は月子の口の中を味わうことなく、颯斗は唇を離した。舌にチョコを残したまま、今度は彼女の耳たぶを優しく噛み、耳をなめる。舌独特の感触と、チョコの粘り気が月子の耳の性感帯をくすぐった。思わず声を上げてしまい、口を手で覆った。

「手で覆わないで月子さんの可愛い声を僕に聞かせてください」
「い、いや……」
「嫌だなんて言わないでください。僕は月子さんの声が聴きたい。貴女が僕の名前を呼ぶ声が、聴きたいんです」
「……は、やと……くん…」
「はい」
「……颯斗、君……。ねぇ、名前を呼んだんだから、やめて?」
「名前を呼んだだけで僕が満足すると思いますか?」
「……思い、ません……」
「じゃあ、僕を満足させてください」
「意地悪」
「意地悪な僕を好きな人は一体誰なんでしょう」

颯斗の言葉に言い返せない月子。どうすればいいのだろう、と考えていると颯斗は箱からチョコを食べていた。
それを見て月子はふと思いつく。彼女も手を伸ばしてチョコを取る。その動作を颯斗は静かに見守る。月子はチョコを持っていないほうの手を伸ばし、颯斗の頬に手を添えた。

「……あの、ね。颯斗君……」
「はい」
「……その、バレンタインだから…」

月子は口にチョコを加える。そして今日三度目のチョコの口移しのキス。ただ、違うのは月子から颯斗へのキス。
月子の口から颯斗の口へとチョコが渡されたのを確認すると、月子は唇を離した。恥ずかしくて颯斗の顔が見れずうつむいた。
チョコを渡された颯斗は口の中でそれをゆっくりと味わう。そして、唇の端についていたチョコをなめ取って、月子に向き合う。

「まさか、月子さんから口移しでチョコをいただけるとは思ってもいませんでした」
「でも、こうしないと颯斗君は満足しないでしょう?」
「そうですね。いつもしないことを月子さんがされるととても嬉しいです。ですが」

月子の鼻と颯斗の鼻が近づいて、くっついた。至近距離で少しみつめあって颯斗は微笑みつつ、口を開いて、

「今は、これで我慢します。ですが、夜は……もう少し満足させてくださいね?」
「なっ……。は、颯斗君!?」
「ふふ、冗談ですよ。それとも、期待しましたか?」
「き、期待なんかしていません!」

顔を真っ赤にする月子を見て颯斗は笑う。これ以上彼女の機嫌を損なわないように颯斗は鼻先にキスを落として、

「さぁ、そろそろ制服の乱れを整えてください。じゃないと、翼君が来てしまいますよ」
「制服を乱したのは颯斗君でしょう?」
「じゃあ、僕が着替えを手伝いましょうか?」
「結構です!」

月子は颯斗に背を向けて制服のリボンを結んだ。その間に颯斗は残りのチョコを確認して、箱にふたをし、カバンに入れた。

「残りは、生徒会の仕事を終えてから食べましょうね」
「う、うん!」

仕事終わりに待っているものがどんなものかわからない月子は素直に頷いた。



Kiss Kiss Chocolate


(……颯斗君の変態)
(おや、変態といったらさらなるお仕置きが待っていますよ?)



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