変わらないでと縋る君に(死ネタ)


「お前は変わらないな」
「将臣君も姿が少し老けただけど何も変わってないよ」
「そうかぁ?」
「そうだよ!ほら、手で頭掻く癖とか。」
「あー…そうなのか?」
「知らなかったの?」

一瞬の沈黙。

「なぁ、望美。」
「なあに」
「戦場に出てたりするのか?」
「!!」

核心をつくような問いに望美は息を飲んだ。将臣には源氏の神子として戦に出てるなんて勿論言っていない。ただ、旅をするのに危険だから剣を習い、戦うのだとしか。

「……もし戦場にでることがあったとしたら、戦わず逃げろ」
「どう……して」
「お前には変わらないでいてほしいんだ」
「わかった」
言ってる意味はわからなくもなかった、戦場は人を変える。それを知っている将臣の気迫に負けて望美は頷く。
それが将臣と望美の最後の会話だった。











そんな会話をしたのは何時だろう。
望美のことを"変わらない"言った、俺は自分の事を"変わった"と思っていた。
実際望美の前に立てば昔と変わらない。望美の前だから、変わらない。
だけどそれが戦場なら、俺は変わる。
血を求めさ迷う怨霊の様に相手を切り付けていく。
だから望美にはこれを知ってほしくないんだ、血の匂いと人を斬った感覚を。
これを見て変わらないやつなんていない。望美も……きっと。




「将臣君…」
「!!…望美」

草村から現れた望美は身体に血をかなりの量をつけて立っている。

「どうしてここに…」
「還内府がいると聞いたから」

その目には感情の色は抜け落ちていて、何も映してなくて。

「望美……?」
「ねぇこの血はどうしたら消えるかな?1人斬って、血がついてそれを消そうとしてまた人を斬ったらまた血がついて…何人斬っても血が消えないよ…将臣君。」
「望美…」

もう手遅れだ。この状態になってしまえばあとは壊れるしかない。だからあれだけ注意したのに。なんで聞かなかったんだよ、望美!!

「さっき還内府がこの近くにいるって聞いたから…還内府を斬ればこの血が消えるんじゃないかなって思って。でもどこにもいないよ…将臣君しか…いないの。ねぇ、還内府はどこ?」
「…」
「………将臣君が還内府?」
「…」
「やっぱり…そうだったんだ」
「望美…」
「平家の将、平殿とお見受けします。私は源氏の神子、春日望美。お命頂戴っ!」
そう言って剣を構え一気に間合いを詰めてくる望美。少し遅れて将臣も得物を構えた。

ガキン、カキン、キーン、ダッ、ガキンガキンガキン、ガチャン

お互い一本も引かない攻防、静寂な森に響くのは金属のぶつかり合う音だけだった。
「望美…」
「はぁっ!!」
相手の動揺を利用して望美の渾身の一撃が将臣の態勢を崩させた。
「くっ」
「覚悟!!」

上に振り上げた剣を望美は躊躇いもなく振り下ろす。

ザシュ

「な…んで…」
「大振り過ぎんだよ…」
バタッ
しかしその前に将臣が望美の胸に剣を突き刺した。望美は地面に倒れ込む、血が地面を黒く汚していく。

「……ごめんな。」

そう言って望美を強く抱きしめる将臣。



何度この光景を繰り返しただろう、この不思議な鱗の力で俺は何度も時空を戻り、彼女に警告してきた。変わらないのは風景ばかりで望美は変わっていってしまう。俺も変わる、望美も変わる。
変わらないと言うのが無理なのか、変わった相手を受け入れる寛大さが必要なのか。どうすれば変わらずに済むか教えてくれよ…無くしたくないんだ、望美を。






変わらないでと望美に縋っていた時間が今は凄く遠い
















<了>

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