「はい、ガラガラしてくださーい」
「これを回せばいいんですか?」
「はい!」


と、なかなか大仰とも思えるほどの朗々な声で返事をされる。
目の前には、カウンターに乗った大きな六角形の抽選器。備え付けのハンドルを持って右に回すと、中に入っている小玉が出てくる仕組みになっている。

現世に新しく大型ショッピングモールがオープンしたので、衣替えにちょうどいいという思惑でグリムジョーと一緒に来たのはいいのだけど、安くて、あれもこれもと買いすぎて抽選券を10枚も貰ってしまったのだ。
つまり、10回は回せると。
そして係員である男の人の背後には、玉の色によって異なる景品が掲示されている。

金色の玉、一等は――。


「A5ランクの国産牛、5キロ、だと…? 狙うべし。いざ、狙うべし!」


気合を入れて、袖捲りをしつつハンドルを握る。

グリムジョーは疲れたとか言って、少し離れたところにあるベンチでジュースを飲んでいる。近頃はラムネがマイブームらしい。前はソーダ。その前はミントだった。次は一体、何に嵌まるのやら。
ブームが巻き起こるとそれしか飲まなくなるので、用意する身としては厄介ではある。

そんな我関せずのグリムジョーに、国産牛を当てて自慢してやろうと意気込んで、回した。

中の小玉が回ってガラガラと音がする。ころん、と出て来た玉の色は白だった。


「ざんねーん、ポケットティッシュでーす」
「まあ、そう上手くはいかんか」


玉砕とはよく言ったものである。
現実はそう甘くはないと察して、あとは、せっせと回した。
ポケットティッシュ。
ポケットティッシュ。
お菓子。
ポケットティッシュ。
お菓子。
ボールペン。
ポケットティッシュ。
ポケットティッシュ。


まあ、当たりませんよね。
来年の花粉症に備えてポケットティッシュを溜めときますよと、十回目を回そうとしたときだった。


「面白そうなことやってんじゃねえか」


急に横から、にょきっと現れたのはグリムジョー。私の頭に手を置きつつ、少しばかり力を込められて、一歩、後ずさった。下がってろという意味だ。
そして残っていたラムネを煽って全てを飲み干したかと思うと、瓶を私に押し付けてくる。反射的に受け取ったけれど、何やら最後はグリムジョーが回すつもりらしい。


「はーい、回してくださーい」
「あのね、グリムジョー。ここのハンドルを持ってね、一回だけ回すと――」


ぐるん。
ぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるん。
ぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるんぐるん。


「え、ちょ、おま、え、グ、グリムジョー? 一回だけだよ? 回すの一回だけ。一回転、一回転だけだから、ちょ、ちょっと落ち着けぇーーーっ!」


袖を引いて必死に制止を掛けるけれども、グリムジョーは何とも真剣にぐるんぐるん回し続けている。
係の人も呆然としているし、私達の後ろに並ぶ長蛇の列も呆気に取られている。

これはマズイぞ。
と、思っていると、抽選器ががこんと外れて倒れた。
その衝撃で、カウンターの上で蓋がぱっかりと開く。

そしてグリムジョーは蓋が開いたままの抽選器を持ち上げて、あろうことか係員の顔の前で逆さまにしてみせた。

ばらばらと白や青などの、はずれ玉ばかりが床に散らばっていく。
辺り一面が色鮮やかな玉で埋め尽くされたとき、皆が気が付いた。


「金色が、ない…?」


それどころか2等賞の銀、3等の銅、4等のピンクまでもがない。
全部、はずれ玉だ。

グリムジョーはすっかり空っぽになった抽選器を投げ捨てて、ポケットに手を突っ込みながら挑発するように笑った。
その嘲笑の悪いこと、悪いこと。


「あー、わりい。壊れちまった」


なんて、思ってもないことを言いやがって。
待っていた人達も何やら事情を察知したらしく、ひそひそと非難が始まる。騒がしくなり始めた中で、グリムジョーは馬鹿にするように小首を傾げてみせた。


「で? 肉、くれんだよなあ?」


は、はい。
と返事をするしかなかった係の人に、ちょっとばかり同情した。


 * * *


「それにしても、よくわかったねえ」
「あの野郎のドヤ顔が気に食わなかった。だいたい、自信ありすぎだろ、あの笑い方。すぐにわかるっつーの」
「前にもこんなことあったよねー。なんかグリムジョーの観察力? 洞察力? 凄過ぎない? 警察官とかになったら検挙すごそう。ナンバーワン刑事とかになってそう」
「ぜってー、ならねえけどな」
「だろうね。制服、格好いいのに。似合うだろうに。あ、この肉どうする? どうやって食べる? 5キロあるし、色んな料理にしてみようか」
「焼き肉。ステーキ」
「お、いいねえ。ん? 待て待てい。それ、どっちも焼くだけじゃん」


そうして私は、肉を軽々と担いでくれているグリムジョーと一緒に虚圏に帰ったのでした。





そろそろ飽きた
(3食連続で焼き肉はキツかった)




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