「寝ないのか?」


縁側から夜空を見上げていると、仙蔵が寝ぼけ眼を擦りながら部屋から出て来た。


「仙蔵。暑くて目が覚めてしまったんだ」
「ああ、私も同じだ。今夜は特に暑い」
「うん、そう思う」


そうして私達は並んで星空を見上げた。

彼は私と波長が合うのだろう。
声の高低、強弱、喜怒哀楽のタイミング、静寂に身を置いてもそれを苦としない性格。
だから男と装って忍術学園に潜入している私としては、最も気疲れしない男が仙蔵といえた。

隣にいるのに、どこか安心する存在というのはなかなか希少なものに違いない。
もっと違った形で出会えていたなら、私が女として、きちんと仙蔵と出会えていたなら、二人で共に年老いていく未来もあったのかもしれないなあ。

二人の間に子供が出来て、それが仮に息子だとしたら仙蔵みたいに美しくなるだろうし、娘だとしたら、少しませた幼少期を過ごすかもしれない。
そんな二人をあやす仙蔵は、もしかすれば今では想像も出来ないような困惑した顔をするかもしれないな。

そんなことを考えていたら、無意識に頬が緩んでしまっていたようだった。

ぷにぷにと仙蔵に頬を掴まれる。


「なにを笑ってるんだ」
「ちょっと仙蔵が父親になったらどうなるかを想像していた」
「父親?」
「そう。遊んでやらないと言いつつ遊んでやりそうだし、自分ひとりの力でやってみせろと突き放しておきつつ影で助けてやっていそうだし、素直じゃない父親になりそうだなと思って」
「失礼な奴だな。他には何を考えていた?」
「どんな夫になるかなと。例えば帰りが遅くなった日があるとするだろ? 留三郎なら妻に『すまなかった! 疲れただろう? 早く休もう!』と言いそうだし、伊作なら『ごめん、途中で人助けをしちゃって』とか文次郎なら『つい仕事に夢中になっていた』とかだろうけど、仙蔵だったら…」
「…何だ」
「仙蔵だったら、『先に寝ていればよかったのに』って言いそうだなって」
「何で私だけそんなにひどい男なんだ」
「でも床について背を向けたあとで、ぼそっと『明日は早く帰る』とか言うだろうなって」
「……私は言わない」
「そうか。考え違いをしていたよ。私はそういう仙蔵の見せないようにしている優しいところが好きだし、奥方になられるかたは幸せだなあと思うよ」


柔らかい風が吹いていく。
熱帯夜を吹き飛ばすにはまだまだ足りないが、それでも幾分か汗を冷やしてくれる。

心地よさに瞼を閉じると、仙蔵が開口した。


「もしアラシが家にいるのなら、私は毎日、早く帰るよ」


空に溶け込む仙蔵の言葉に、また頬が緩む。
うっすらと目を開けて仙蔵を見れば、月明かりだけの暗がりでも赤面しているのがわかった。


「照れるなよ」
「うるさいな」
「いや、でも、そうか。早く帰って来てくれるのか。約束だぞ」
「…ああ」





私は幸せものだなあ
(例え嘘だとしても)




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