「なんか、アラシ、変」
「え、どこが?」


唐突にルフィに言われて、自分の体を見回してしまう。
特に痩せたりも太ったりもしていないし、体調が悪いわけでもない。
化粧をしていないのはいつものことだから、隠しているわけでもなく、本当に普段通りの自分のはずだった。

けれどルフィは顎に手を置いて、私をじっくり観察している。


「なんか、変なんだよなあ。何だろう」
「うーん、よくわかんないけど、とりあえず今日の訓練やろうか」
「おう」


そして私達は甲板で対峙した。
私は拳銃使いで、接近戦は強くない。
だから毎日、肉弾戦の稽古をルフィにつけてもらっている。
初めこそ、皆に見守られながらの訓練だったけれど、受け身の取り方を習得してからはルフィと二人だけの食後の運動みたいになっている。


「せーのっ」


ルフィの掛け声で始まる殴り合い。
私がもろにルフィの拳を受けるとダメージが大きすぎるので、かわすことを前提としている。
右の拳をしゃがんで避け、左足の蹴りを宙返りで避け、さらに回転で勢いをつけた裏拳を後ずさることで避ける。
厄介なのはルフィの腕が伸縮自在なこと。
目測を誤って、鼻先を擦った。


「うおおお…あ、危なかった…」
「次!」


間髪入れずに容赦なく続く殴打の嵐を避けていると、当然、私の方が早く体力が尽きる。
一時間もすると、私のスピードは見るからに遅れを取り始めて、呆気なく腹部に蹴りを一発貰った。

仰向けのまま、手摺まで吹っ飛ぶ。
頭をごちんとぶつけて「いててて」と、やっていると、気付いた。
ルフィがいない。
はっとして両腕で体を守ろうとするのと、空からルフィが攻撃を仕掛けてくるのは同時だった。

ずどん、と私の顔のすぐ横に拳が着弾する。

砂埃さえ舞って、ちりちりとした恐怖が拳のすぐ近くにある頬から全身へと駆けていく。

倒れた私の上にルフィが跨がっている。そんな状況が少し続いた。


「くっそー、体力つけないとなあ」


反省点を言ってみても、ルフィは何も言わない。
首に掛けてある麦藁帽子が風に乗って、背中でぱたぱたと揺れているのが見えた。


「ルフィ?」


どうしたんだろうかと見ていると、ルフィの手が急に私の服に伸びた。
シャツの胸ぐらを掴んで、なんと、びりびりと破き始めたではないか。


「ん!? なに、どうした?」
「アラシ、これ脱げ」


手を止めずに言う。
ボタンが弾け飛んで、甲板の上を転がった。


「え、え? 脱ぐって…」
「白いシャツ。やだ」


何を子供みたいなことを言っているのだろうか。
確かに今日は洗濯の都合でいつもの黒い服ではなく白のワイシャツだったけれども、それがどうかしたのだろうか。


「やだって…」
「汗かくたびに透けてく。ボタンもやだ。隙間から胸が見える」
「は…はあ? わ、わかった、とりあえず着替えてくるからどいて」


言っても、ルフィは私に跨がったまま動かない。
運動していたのに急に止まったから、私の体は汗が吹き出し始めている。
暑くて、熱くて、息も上がっていた。

下着が露になったまま、シャツだった残骸が腕だけに残っていて、私の頭は混乱している。
何がそんなにルフィの機嫌に障ったのか、よくわからないでいるとルフィの動きが止まった。
手をだらりとぶら下げて、私の体を見下ろしている。

ルフィの腕に鳥肌が立っていくのがみえた。
その目の、いつもとは違う野生の強さに固唾を呑む。

すると突然、呼吸に合わせて上下していた私の胸をルフィが強めに掴んだ。


「いっ…!」


痛みに顔を歪める。
ブラジャーをむしり取ろうとしたルフィの手は、でもそれをしない。


「なあ、やっぱり変だ」
「……何が?」


胸に触れたまま、何かに耐えるようにルフィの顔が苦痛に歪んだ。
くしゃり、と。


「なんか、変だ。無性に、アラシを抱きたくなる」





心の変化
(それは私じゃなくて、私を見る貴方の目が変わったの)




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