落忍 | ナノ


やれやれ。
いきなり実習先の変更を言い渡されたかと思うと、その内容は呆れてしまうものだった。
合戦場でバイト中のきり丸を救え。
どうやらきり丸は戦だと知らずに花摘に行ってしまったらしい。

本来の実習とはまるで違うが、腕組をして鼻唄を歌えるほど悠長な時間はない。
足早に山道を駆けて行き、切り立った丘に立つ。
眼下では戦が繰り広げられていて、戦線も入り乱れている。

きり丸はどこだ?

まさか戦に飛び込むわけでもないだろうに。
きょろきょろさせていると、不審者として捕らえられたきり丸が連行されている姿が見えた。

ここは変装して、連行係を代わると買ってでればいいか。そのためには誰か一人の身ぐるみを剥がなくては。


「助けてー!」


きり丸の叫び声が聞こえた。
見れば、逃げ出そうとして失敗し、今にも斬りつけられんばかりに攻められている。
仕方ないと、きり丸と武士の間に割って入った。
作っておいた宝禄火矢で目眩ましをしつつ、と考えていると武士を倒した影がひとり。

おや。
と思っていると、見覚えのある微笑みを向けてくれた。


「利吉さん!」


きり丸が言い、思い出した。そうだそうだ、山田先生のご子息だ。
まったく似ていない。

利吉さんはきり丸を担いで「こっちだ」と先導してくれた。
ありがたく追うと、林の中できり丸を下ろす。


「驚いたよ、急にきり丸がいるんだもん」
「すみません」
「そこで、君は…?」
「忍術学園六年のアラシです。先日、編入して参りました」
「ああ、なるほど。いい判断と身のこなしだったよ。それで二人だけで帰れるかな? まだ仕事の途中なんだよね」
「帰れます。ありがとうございました」
「うん。とても勇気ある行動だったよ。お疲れ様」


ぽんぽん、と頭を撫でられたのは久しぶりだった。

何を言えばいいのかわからず、会釈をして踵を返してしまう。
きり丸がアルバイトの成果を得られず嘆いていたので、帰りにうどんをご馳走してあげた。

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