留三郎
君の快活さが、嫌いでした。
暑苦しくて、鬱陶しくて、静かに寝ていて欲しいと思った夜もありました。
けれど、伊作が夜中にいきなり薬草を煎じ始めて、猛烈な異臭が部屋に充満しても怒鳴ったりはしなくて、それが、君はきっと優しいのだろうと思うひとつの理由でもありました。
君は私を抱いても、私を女だとは見抜けなくて、鈍感な忍者だなあと実は呆れてもいました。
君は優しいのだろうと思います。
だから、こんな私の世話をよくしてくれたのでしょう。
体力作りにも付き合って、編入生である私をいつも慮ってくれたこと、わかっていました。
ひとりにして欲しいと願ったときもありましたが、いつの間にか、君の笑顔から活力を貰っていました。
後輩や伊作を思いやる君が、眩しいとさえ感じていました。
もしも私が本当に男で、本当に編入生だったなら、君を尊敬していたと思います。
いい友に巡り合えたと喜んでいたと思います。
今、もう一度、会えたなら、君は私に言ってくれるのでしょうか。
同室じゃないか、と。
きっと言ってはくれないのでしょう。
けれど、次に、君に何かあったときには、私は君を助けたいし、そしてせめて一度だけでも、言わせて欲しいのです。
同室じゃないかと。
* * *
留三郎は読んだ手紙を破り捨てた。
いてもたってもいられなくて、庭に飛び出す。
劣等生は演技だった。
実力を隠して、駄目な学生だと思わせていただけだった。
友として、同じ土俵に立って欲しくて手を差し伸べたのに、それは無駄だったのか。
ならば、お前の実力はいかほどなのだろうか。
澄み渡った青空に向かって、深呼吸をして叫んだ。
「勝負しろーっ!」
届いて欲しい。
許してはやらない。
怒ってもやらない。
恨んでもやらない。
嫌いになってもやらない。
お前ならば俺の性格はわかっているのだろう。
泣いてなんか、やらない。
prev / next