アラシが編入してきてすぐに、仙蔵はアラシが自分とよく似ていると思った。
顔ではなく、行動が。
誰かと行動を共にすることは滅多になく、単独で動き回る冷静な男。
それがアラシの第一印象だったし、あながち間違ってもいない自負もあった。
アラシは熱い留三郎や伊作と同室になっても、涼しい顔でのらりくらりと厄介事をかわしていた。
「私はアラシという。君が立花仙蔵か?」
「そうだが」
「火薬を扱って忍具なら君に聞けと言われて来た。時間はあるか?」
「少しなら」
「良かった」
鬱陶しいと思う反面、興味もあった。
どんな人間なのか、どこまで自分と似ているのか。
「どうして今の時期に編入してきたんだ?」
「私が通っていた学校が焼け落ちてしまって、生徒が敵軍に捕虜にされたんだ。救出されたのはいいのだけど、住むところがなくてここを勧められた」
「なるほど。それで胸と腹に包帯を巻いているのか。傷痕なんて、誰も気にしないのに」
「私が見ると思い出して嫌な気持ちになるんだよ」
「そうか。まあ、そういうことなら忍具の復習を手伝ってやらなくもない」
「ありがとう」
そのときのアラシの笑顔は、仙蔵とは似ていなかった。
むしろ知れば知るほど、アラシは仙蔵とまったく違った。
「なあ仙蔵。ちょっとサボらないか?」
「はあ? まだ勉強を始めて、さほど経ってないぞ」
「飽きた。仙蔵、散歩に行こう、散歩」
「私は独りが好きなのに!」
けど、口ではそう言いながら嫌ではないと感じるようになったのは、やっぱりアラシと会話をしていても疲れないからだった。
二人でいるのにひとりでいるような気楽さがあって、仙蔵はアラシなら行動を共にしてもいいと思えるようになった。
それが恋慕だと気付くには、いささかの葛藤もあった。
「アラシは男だよな?」
「どうした、いきなり」
「いや…」
自分がおかしくなってしまったのだろうかと思いつつ、アラシを見るたびに触れたくなる欲も確実に育っていた。
「仙蔵」
名を呼ばれるのが心地よかった。
「仙蔵」
その声で呼ばれる名が好きだとさえ思った。
けれど、今、目の前にあるのはぬかるんだ地面を打つ雨と、アラシのいない忍術学園だけ。
自分は利用されただけで、アラシの全てが嘘だった。
なのに、どうしてだろうか。
「心配させるなって、約束したのに」
怪我は大丈夫なのだろうか。
それしか、考えられなかった。
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