落忍 | ナノ


夜中、長屋の自室で天井を見上げながら、どうして留三郎達を助けてしまったのかを考えていた。

理由はわからなかったが、身体が勝手に動いたのは事実だった。
愛着。
雑渡さんの言うように、私は留三郎に対して愛着を抱いているとでもいうのだろうか。

寝返りを打って、留三郎の横顔を見る。
何も感じない。

忍者の反射で助けてしまったのだろうかと思いつつ、仰向けに直る。
そこで雑渡さんに報告した方がいいのではと思い立った。
負傷の件もそうだが、何より山田利吉だ。
彼が私に疑念を抱いているのは明らかだ。
仙蔵を利用したものの、疑惑を完全に払拭出来ているかは定かでない。

報告するのが好ましい。

起き上がって、だが立てなかった。
寝巻きの裾を掴まれたのだ。
ぎくりとして視線を落とせば、留三郎の伸びた手がしっかりと私の着物を握っている。
彼特有のつり目もうっすらと開いていて、私を見上げていた。


「痛いのか…?」


寝起きの間延びした掠れ声で問うてくる。
私は留三郎の指を外そうとするのだが、力が強くて敵わない。
諦めて、深く溜め息をついた。


「ちょっとな」


あのあと結局、腕を固定された。
三週間は動かすなとの診断だった。実に煩わしい。神経等に損傷はないようだが、まだ熱を帯びていて痛みがある。

かと思うといきなり留三郎が私の布団に潜り込んできて、私を強引に寝かせたあげくに寝巻きの中に手を這わせてきた。


「おい…!」


制しようと抵抗したが、留三郎の手は左肩で止まった。


「寝てるとき、手が冷えるんだ。氷枕の、代わりに…」


言い終える前に、寝入っている。
耳のすぐ傍で留三郎の寝息が聞こえ始め、呆れた。
だが、言った通り手は冷たく、心地がいい。

今は借りておくか。


「…ごめん」


寝ようと瞼を閉じると、留三郎が呟いた。
起きてはおらず、寝言だったらしい。
それがもし私に対しての言葉なのだとしたら、少なからず怪我に責任を感じているようだった。


「馬鹿な奴だな。私が勝手にしたことなのに」


気付くと、頬が緩んでいた。
はっとした。
これは他ならぬ愛着だった。
私は彼に愛着を持っている。

恐ろしいことだった。

早く仙蔵から情報を引き出して離脱しよう。
そうだ、明日、あるいは明後日にでも。
なるべく早く。


いつの間にか眠っていたらしい。
翌朝、私達三人が一向に起きてこないのを訝しんで、仙蔵と文次郎が起床を促しに来た。
そこで私に留三郎が抱き着いているのを見て、文次郎は笑っていたが仙蔵が鬼の形相になっていたと小平太に教えられた。

雑渡さん。恋人というのも、なかなか面倒です。

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