落忍 | ナノ


半年が経った頃、私は忍術学園からもタソガレドキ領からも離れた街に甘味処を開いていた。
なかなか集客もよく、生活には困らない程度に繁盛している。
初めは女とも男ともつかない格好をしている私の容姿が噂になったらしい。男女の判断をするために通っていた客が、いつの間にか味の虜になって常連になるという流れが出来つつある。

夜になって、閉店のために暖簾を下げた。
机を拭いて、明日の仕込みをする。

そこで戸が開いた。


「すみません、もう今日は――」


客に駆け寄ろうとして、足を止めた。


「やあ。曲者だよ」


そこに立つ人は、あの真っ白な花をいっぱいに持っていた。


「忍者でなくなったアラシに、正式に言いに来た」


包帯の下で笑いながら、少し照れ臭そうに頭巾を取るこの人は、私に花束を差し出して腹を突いたことを謝った。
きちんと急所は外していたから許して欲しいとも、頭を下げた。


「君の心は私のもの。私の心は君のもの。ずっと変わらない。奥さんに、なってくれる?」


花束を受け取る以外に、私はどうすることが出来ただろう。
私の血で汚れた花をまだ懐に持ち続けているのが何よりの証拠なのに、誤魔化すだなんて茶番をする必要があるのだろうか。

受け取った花束ごと抱いてくれたこの人との明日を、望んでいたというのに。





明日の喜びを忘れたくない
(「あー、お腹痛い」「ごご、ご、ごめんってば」)

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