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「右、右の部屋に入るんだって!」
「右つったって3部屋あるっつうの! どれ!」
「それそれそれ! バッカ! その隣で――はい死んだー」
「はい死んだー」


アラシはコントローラーを持ったまま天を仰いだ。
只今ホラーゲームの真っ最中。
アラシが操作をして、俺が攻略本片手にナビゲーターの役をしてやっているのだけど最高難易度のクレイジー設定にしてあるため容易には進まない。

かれこれ2時間はやり続けている。現在時刻、深夜3時。


「目がしぱしぱする」
「電気点けるか?」
「馬鹿もん。ホラーゲームは真夜中の暗い部屋でやるからこそ面白いのだ。確かブルーライトカットの眼鏡を持ってきた筈」


画面にはコンティニューのまま主人公が絶命したシーンが表示されている。
アラシはごそごそと鞄の中から取り出した眼鏡を掛け、凝った肩を動かしてからリトライし始めた。

今は主人公を追跡してくるボスキャラから逃げ惑っている最中。既に道順は覚えたのか、俺のナビがなくとも主人公を操作している。

俺は攻略本を見開いたまま置いて、スマートホンのカメラでアラシを撮った。


「眼鏡初めてじゃねえか? 意外に似合うな」
「意外は余計じゃ」
「お前の親もスゲーよな。高3の受験生の娘が男の家に泊まるって普通許さねえよ」
「相手が洋平だからね。この、くそ! 速く走れ!」
「つか腹減らね?」
「減った! ぐっ、銃の弾が切れた! 弾、弾弾! 弾がないいい、弾ぁ!」
「買いに行かね?」
「行く! 弾見つけたっ!」
「つかさ。結婚しね?」
「する! うひょー! 火炎放射機ゲットー! おら、燃えろオラ! 塵になりやがれ、おりゃ!」
「つか、もう書類貰ってきてるから今から出しに行かね?」
「いいとも! っしゃ! この、この! 私に盾ついたことを後悔させたるわ死にさらせ馬鹿め!」


そうして無事にボスキャラを討伐したアラシは鼻唄を歌いながらセーブをし、親に承諾することもなく麦茶を飲む片手間に婚姻届に名を記した。
とはいえ既に互いの親にはこのことを話してあって、互いの父親の名前が証人欄に記載されている。公認の仲だったとはいえ、高校生の間に結婚を許すとはやはり頓狂な親だと思う。

アラシはというと「はい、書けた」と呑気に婚姻届を四つ折りにも八つ折りにもして胸ポケットに捩じ込む始末。

そういう普通の女とは違う行動を見て、思わず吹き出して笑ってしまった。


「ほんと、お前で幸せだわ」
「ほれ、行こうかね。ピザまん買ってから役所ね。先にピザまん。これは譲れんからな」
「わかったわかった」


ぽんぽんと頭を撫でてやって、部屋の明かりを点ける。
冬の寒さが厳しい外に出るために上着を羽織っていたアラシの眼鏡を外して、何を言うでもなく強引にキスを奪った。





言葉はいらない
(今さら神に誓ったりなんかしない)

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