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岐路
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体育館の入口から花道の練習姿を見ていると、正直、何とも言えない気持ちになる。

変わっちまったんだなあ。
遠くに行くんだなあ。
お、上手くなってる。すげーな。
さすが花道だなあ。

どの感情が一番強いのかもわからないくせに一丁前に寂しくなったり、成長を喜んだりしている俺はまだまだガキなのだろうと改めて認識させられて、少し情けなくなる。

暑い夏。
外だけでなく体育館の中からも熱気が溢れ出していて、俺でさえ汗が噴き出している中でも頑張る彼らの声や表情を見ているとまるで不快を感じない。
青春とは誰が考えたんだか知らねーが、よく言ったものだと思う。

膝に頬杖をついて眺めていると、ふと隣に誰かが立った。

瞳だけで見上げてみれば、見慣れたその姿に下唇を突き出して不機嫌を表してみる。

けれど当の人物は俺を見ようともせず訊ねてきた。


「大楠達は?」
「帰った」


当の人物、アラシは俺の家の隣に住む腐れ縁の女。
運動神経は抜群にいいのに頭が果てしなく悪く赤点常連。けど本当はやれば出来るのにやらないタイプの典型で、追試の範囲と出るであろう箇所を教えてやれば一時間で理解、記憶したのだからこいつも大概の物臭である。

アラシの目はやっぱり花道を追っていた。

シュートが格段に良くなっているのを見て微笑んでいる。


「うまくなったね」
「ああ」
「どんどん離れて行くね」
「そうだな」
「ま、そんなに寂しがるなって。生姜焼き作ってあげるから」


ぽんぽん。くしゃくしゃと頭を撫でられた。

アラシの家は定食屋を営んでいて、安さと量でなかなか繁盛している。
加えてアラシのファンが常連になっているのだけれど、アラシ自身は微塵も気付いていない。


「肉1枚足せよ」
「仕方ない、奢ってやるかー」
「飯も大盛」
「まあそれくらいは」
「ビールも」
「ざけんな」


俺は立ち上がって、やっぱり俺達なんかには気付きもしない花道を最後に見て、歩き出した。

バスケ部の声とボールの音に背中を押されて、2人で並んで歩く。
どちらともなく歩調を合わせて、俺がアラシに手指を絡ませれば何の抵抗もなく握り返してくれた。


「いつも思うんだけどさ、あたし達って付き合ってんの?」
「知らねえ」





岐路
(俺も違う道を歩き出しているのかもしれない)

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