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目が覚めたのはどうしてだったか。
よくわからないが、とにかく急に目を覚ました。上半身を起こすと記憶が混乱してここがどこなのかを一瞬忘れた。

あの独特な香と音楽によって記憶が呼び起こされて、そうだラブホテルだと思い出す。大あくびをして頭をぼりぼりと掻いた。身体は相変わらず重いが、だいぶ回復したようだった。

アラシではないが露天風呂でも入って帰るかと思案したところで、そういえばアラシがいないことに気付く。荷物はそのままだし、帰ったとも思えない。

どこに行ったんだ?

考えて、まあいいか、という結論に至って再度ベッドに体を横たえた。

瞬間、隣にアラシが寝ていることに気付いてぎょっとした。

有言実行か、随分とさっぱりとした顔でタンクトップ姿で眠っている。枕に散らばった髪からは、先までとは違う香りがした。

元々化粧はしていなかったが、加えて飾り気のなくなったアラシは普段の気の強そうな眼差しが、長い睫毛に隠されて癪だが美人の部類に入る。引き結ばれた唇からは吐息が漏れていて、肌の白さのせいで余計に唇の赤が際立つ。

普通にしていれば彼氏など簡単に出来そうなのに、こうした破天荒な性格をしているからそこらの男では手に余るのだろうとも思う。
時計を見れば、入室してから5時間が経っていた。

今、アラシを起こして帰宅するのも何故だか面倒で、財布にいくら入っていたかを思い出す。


「泊まっていくか」


従業員に宿泊する旨を伝えれば追加で精算してそのまま泊まれる仕組みになっている。

俺の手はフロントへ通じる受話器へと伸びていた。





 * * *




「三井さーん! おーい、三井さーーん!」


べちべちと強めに頬を叩かれて目を覚ました。
視界いっぱいにアラシがいて、驚いて飛び起きる。


「すいません、がっつり寝過ごしました、部活に直接送りますんで」
「は? 何時だ、いま」
「8時半です」


練習は9時からだった。
試合の翌日だから通常よりも軽いメニューをすると昨日赤木が言っていた気がする。


「さっきお金払ってきて、コンビニで下着とか練習用のシャツとか買ってきたんでそれ着てください。駐車場で待ってますから」
「ああ、悪いな」


アラシが上着を羽織り、小物をポケットに捩じ込んでいるのを見て、俺も頭が冴えてきた。
備え付けのタオルを引ったくってシャワールームに入るのと、アラシが部屋を出ていくのは同時だった。



 * * *



体育館には部員全員が集まっていて、準備体操を始めるところだった。
猛スピードのバイクが体育館に横付けされると、何だ何だと部員達が体育館から飛び出してくる。

筆頭は意外にも赤木で、ハンドルを握るアラシに歩み寄る。俺はバイクから飛び降りた。


「迎えにまで行ってくれたのか。悪かったな、助かった」
「いえラブホに泊まったんです」
「ら!?」


バスケ部全員が声を揃えて固まった。
その反応を見て「しまった」と思ったらしいアラシは説明を始めた。


「あー、いや、違うんですよ。私から誘ったんで三井さんは悪くないんです。昨日バイクに乗ってたら三井さんが『やばい』っていうんで、取り敢えずスッキリして貰おうかと思ってラブホ提案しただけなんで」
「す!?」


また全員が口を揃えて固まった。
俺は呆れて天を仰いだ。あれだ、こいつは典型的な言葉が足らない奴だ。


「もうお前喋んな。変な誤解される」
「そーみたいですねえ。おかしいな。じゃあラブホ代と下着代の計1万、貸しなんで」


じゃ。と短く言って去っていくアラシを見送る。
嵐みたいな女だな。

どうやって1万返してやろうかと考えながら向き直ると、部員の冷たい眼差しが注がれているのに気付いた。


「なに見てんだよ」
「…三井さん、ラブホ代を払わしたあげく下着まで買わせるとか男として最低ですよ」
「うるせえ!!」





疲労の功名
(お前の寝顔が頭から離れない)

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