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辛いときこそ傍にいる
(2/11)



<ゾロ/ほのぼの甘>


ぐぬう。

気付けば腹痛だった。

昨日の夜遅く、勢い込んでラーメン、酒、餃子、炒飯をかきこんだのが災いしたらしい。

まだ3時間と眠ってもいないのに、腹痛で目が覚めてしまった。

外はまだ青白い。

普段ならば気にならない船の揺れも、体調が悪いとあれば敏感になってしまうのは自然な訳で。

腹痛だけでなく吐き気まで襲ってきたとなると、私は一刻も早く楽になりたかった。

お手洗いでぶっ散らかしたあと、動く気力が湧いて来た。

目を閉じても頭がぐらぐらと揺れているような気がして、また気持ち悪くなってしまうから外の空気を吸おうとお手洗いを這い出た。

文字通り、這い出た。

屈んでいれば、幾分か腹痛が和らぐような気がしたのだ。

気休めだけれど、ずるずると甲板へ這い出る。

ひんやりとした空気が頬を撫でた。

重い息を吐くと、冷たい酸素が肺に入り込んで来る。

それが、今はたまらなく心地よかった。

手摺に背を預けようと、またずるずると四つん這いで歩を進める。

そこに、唐突に邪魔が入った。

目の前を塞ぐように、黒い両足が立ったのだ。

この足は、顔を見なくともわかる。

今は相手にしていられない、と右に避けるも、足もそれに倣った。

今度は左に避ける。

また足もついてきて、行く手を阻む。



「き、さま…私を殺す気なのか…」



「てめえ、何してんだ」



「皆が皆、あんたみたいな強靭的な胃袋の持ち主じゃないの。どいて。今すぐ寄りかからないとあんたの洋服に吐き散らかす自信がある」



うえ。と言いながら、ゾロは私の道を塞ぐのを辞めた。

ぼてぼてと四つん這いでどうにか手摺まで来て、背を預ける。

たったそれだけのに、敵と一戦を交えた後のような疲労感を感じていた。

ゾロはもういなくなっていた。

あの野郎。

なんて薄情なマリモなんだ。

早朝特有の冷たい空気に身をさらして、何とか改善の兆しが見えた。

ぼんやりと空を見上げる。

何もない。

そこにはただただ色だけが広がっていて、町にあるような樹木や家屋で空を遮らない。

森も山も好きだけれど、やはり海には違う開放感があった。

このまま皆が起きてくるまでここでのんびりしていよう。

騒がしくなったら、チョッパーにヘルプして貰えばいい。

ご飯が美味しすぎるというのも、常人には考え物のようだ。

ルフィやゾロの怪物組と同じ生活をしていたらいつか身を滅ぼしてしまう。

何の気遣いもなく大きなゲップをかますと、お腹が少し軽くなった。



「てめえは本当に女か」



呆れ果てたように言いながら、ゾロがまた目の前に立った。

空が緑色で遮られる。

しかし、避けようとはもう思わなかった。

一度、楽な体勢を見つけてしまうともう動けなくなるのが人間の性というもの。

応えもせずゾロを見つめていると、コップを差し出された。

水が並々と注がれている。

どうやらキッチンにこれを取りに行ってくれたらしい。

薄情なやつだと罵って正直すまんかったと胸中で謝りながら、私はコップを受け取った。



「いまクソコック起こして味噌汁作らせてっから」



「なん、だと。わざわざ起こさなくても。申し訳ない…」



「あいつがお前のために起きて味噌汁作るくらい迷惑だなんて考える訳ねえだろうが。むしろ使命だと思ってるぞ、あれ。なんなら俺が作ってやろうか」



「そしたら今すぐチョッパーを起こさないといけなくなるから遠慮しとく。ゾロの戦い以外の不器用さは天性の才能」



「どこの口がほざいてやがる。ったく、水貸せ!」



私の手から水を引っ手繰って、私の口に指を突っ込んで無理やり開けさせたと思いきや、思い切り水を流し込んできた。

初めこそ咳き込んだけれど、順応して水を飲み干す。

とはいえ顔や首は水でびしょ濡れになってしまった。

ゾロが離れていくのをじっと睨みつける。



「鬼」



「こんな朝早くに世話してやってんのに何が鬼だ。天使だろうが」



へっ!

わざと大きく鼻で嗤うと、ゾロの青筋がぴくりと浮かび上がった。




「てめえ…」



「あ、待った。すとっぷ。吐きそう」



「あ!?」



「トイレ。早うトイレに」



「待て待て待て待て!」



慌てながらもゾロは私を抱き上げて、お手洗いに向かった。

そのスピードは速いのだけれど、揺れがさらに吐き気を加速させる。



「ゾロ、やばい」



「待てーーー!!!」




※ ※ ※ ※ ※




何とかお手洗いに間に合った私は、その場に項垂れた。



「重てえ…! このデブ!」



「ぐぬう…何も言い返せまい…」



お手洗いには間に合ったものの、ゾロの手から離れるほどの間髪はなく、ゾロに支えられながら吐き出してしまった。

ゾロがその場に崩れ落ちると、バランスをとる気力のない私もゾロに乗っかってしまう。

しばらくの間、動けなかった。

気持ち悪い。

なりふり構っていられないほど気持ち悪い。

自分が女性で、相手が男性だろうと、どんな姿を見られていても何も感じないほど気持ちが悪い。

その思いが、ゾロの上からどいてやろうという気持ちをまたさらに薄くしていた。



「てか狭えよ。どけ」



トイレの中で2人が重なり合っているというのは中々窮屈である。

体の逞しいゾロと一緒ならば、尚更だ。



「むり。動かして」



「あ!? てめえで動け! ここまで運んでやっただろうが!」



「手出すなら終いまでやってくれ」



「こ、の…」



ゾロが怒鳴り散らそうというとき、



「…お手洗いで情事……?」



味噌汁をトレイに乗せたサンジがお手洗いを開けた。

会話が聞こえたので開けたらしいのだけれど、その瞳は私とゾロを怪しんでいる以外の何物でもない。



「違う。サンジ、聞いて。断じてそんなことはしていない」



「2人がそういう関係だったなんて、俺、ショック過ぎてどうしたらいいか…いやレディの全てを受け入れるのが男の役目…俺、それでも構わないよ」



「「勘違いすんなーーーー!!!」」



私とゾロの言い訳はついぞサンジには信じて貰えなかったけれど、味噌汁を飲んで何とか元気になった。

体調がよくなると急激に襲われた空腹と眠気に、またゾロがお守り役を任される。

ぶつくさ言いながら、それでも私をベッドに運んでくれたゾロを、いいやつだと思ったのはここだけの話。





辛いときこそ傍にいる
(ゾロってば何だかんだいいやつ)

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