ひとりで外に出て、ストレッチをしているとノイトラがやって来た。
私が前屈をしているのが珍しいらしく、片眉を吊り上げて見下して来る。
「おはよ、ノイトラ」
「ああ。何してんだ? 爪先にも届いてねえぞ」
「傷を抉るな」
何故か私は硬いらしい。ふんっと勢いをつけても、そこに何かがあるかのごとく体が固まる。それ以上は上半身が折れてくれなくて、くるぶしあたりの宙を指先が頼りなく舞っていた。
「なんかね、体がやわらかいといいことだらけなんだって」
「例えば?」
「怪我しにくくなるとか」
「戦いもねえのに、いつ怪我すんだよ」
「ごもっとも。まあ暇つぶしですよ」
「押してやろうか?」
「お、助かりますー」
そい。と訳のわからない掛け声と共に、ぎゅんっと背中を押されて思わず悲鳴をあげた。
「ぎゃあっ!! 力、強すぎィ! 足が、足の裏がびんっってなったわ、びんっって!」
「たいして力入れてねえんだけどなあ」
「くっそ…ノイトラがめちゃくそ怪力なの忘れてたわ…ゆっくり、マジゆっくりフェザータッチで押して」
「ほれ」
「あー、ちょうどいいですわ。いい感じ、いい感じ」
「どこまで押せばいいんだ?」
「あ、もういいです。戻りたい、なう」
「膝、浮いてんぞ」
そう言って、私の背中を右手で押しながら、左手で膝を押さえて来る。
まあつまり背中から抱き付かれているようなものなのですけどね、今はそんなロマンチックなことを考えている余裕などなくただひたすら脚の痛みに耐えるのみ。
「無理っ! 戻るぅ!」
「あ、手すべった」
「ぐぅっ!」
今度は背中に胸板を押し付けて来る鬼畜ぶり。
「はい息吐けー」
「ふ、ふぃー」
「吸ってー」
「すぅー」
「吐けー」
深呼吸を繰り返して、数秒、耐えたあとでようやくノイトラが離れて行ってくれた。
「めっちゃ疲れた…」
「さっきより柔らかくなっただろ?」
「んむ?」
試しにひとりで前屈をしてみると、おお指が爪先に届く。
「少し痛めつけるくらいやらねえと体ってのは変わらねえんだよ」
「痛めつけるって…面白がってるでしょ」
「次、開脚やるか。とことん付き合ってやるぜ」
「いや、いいや。今日はこんな感じでいいかなと――って勝手に私の足を広げるんじゃないよ。ちょっと待って、タイム、待っ」
「ほれ」
「んぎゃあああっ!!!」
深呼吸の間
(ノイトラの息が耳に掛かるんですけど)
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