死神 | ナノ


其れがたる所以  


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「なに作ってんだ?」
「ノイトラ様。はい、実は現世にはホワイトデーなる制度があると判明しまして、アラシのためにホットケーキを作っているところです」
「…その容器、タライじゃね?」
「はい。アラシが痩せの大食いなので、これくらいは作っておいた方が文句を言われないかと思いまして」
「…へえ。手伝ってやるよ」
「ノイトラ様のお手を煩わせるようなことは…それにホワイトデーというのはバレンタインデーのお返しをするという日でして、アラシからバレンタインに何も貰っていないノイトラ様にはホワイトデーを贈る必要がな――」
「うるせえ殺すぞ」
「え! し、しかしバレンタインに何も貰っていないのに――」
「うるせえ死ね」


言いながら、ノイトラ様は調理室に入ってきて山盛りになっている卵を手に取った。
僕は調達してきたホットケーキミックスを大量にタライに開ける。


「全部、割って入れりゃいいんだろ?」
「はい。さすがノイトラ様、お察しが素早いです。僕は牛乳を入れますね」
「…卵…持っただけで割れる」
「さ…! さすが最高硬度…! 僕の采配ミスです。僕が卵をやりますので、ノイトラ様は牛乳を全て注ぎ入れてください」
「あ? 情けなんざいらねえんだよ」


迂闊。
ノイトラ様は情けを掛けるのも、掛けられるのも厭うのにどうして口走ってしまったのか。
失礼しましたと謝罪を述べて、紙パックの牛乳をどぼどぼと流し入れ終えてから、ノイトラ様が慎重に卵を持つ仕草を観察する。
こちらが息を止めてしまうほどの丁寧さで、ひとつ、割るのに成功しただけで拍手してしまった。


「卵うぜえ」
「この、卵! ノイトラ様を腹立たせるとは…存在すら憎々しい…」
「やっほー! 遊びに来たよー!」


僕達が懸命にホットケーキを作っている最中、渦中の人であるアラシがどばーんと勢いよく調理室の扉を開けてきた。アラシの背後にはグリムジョーも立っていて、僕達の行動を見て片眉を吊り上げている。


「あ、ホットケーキだ。って、二人で食べるには多過ぎじゃない!?」


大きなタライを指差して笑っているアラシの隣でノイトラ様が集中して卵を割っている。
両手で丁寧に割るその姿、麗しい。


「これは貴様のためのホワイトデーのホットケーキだ」
「マジ!? うひょー! やったー! バター乗せるぅー! バター以外は認めないー! いぇあ!」
「ホワイトデーって何だ」
「ふん、グリムジョー。貴様に教示してやるのはこれが最後だと思え。ホワイトデーとはいわばバレンタインのお返しだ」
「はあ? 誰も何も貰ってねえだろ」
「ん? 僕はアラシから手作りのネックレスを貰ったが?」
「何だそれ聞いてねえぞ」


しーん。
と、その場が静まり返った。
アラシは笑顔のまま固まっているし、僕はどうしようか困ってしまったし、ノイトラ様は見事な集中力を発揮なさっているし、グリムジョーは怒り顔でアラシを見つめているし、凍り付くとはまさにこのことだった。
苦し紛れにアラシは袖を捲りながら明るく言った。


「…えーっと。手伝うよ、卵!」
「待て、ノイトラ様の邪魔に――」
「必殺! 片手割り!」


何ということでしょう。
アラシは左右ひとつずつ持ち、片手でそれぞれの卵を割ってみせた。
僕達は驚愕の顔になり、ノイトラ様が問うた。


「何だ今の」
「ふはははは。見たまえ。これが我が特技よ! 現世で培った経験よ!」
「「俺にも教えろ」」
「あ、じゃあ僕も」
「おっけー」


アラシは人差し指と親指で卵をつまみ、薬指と小指で下部を握って、前者二本と後者二本の指に逆方向に力を掛ければ割れると説明した。
中指は添えるだけ、だと?


「出来るか、こんなの!」
「お、出来た」
「なにぃ!? グリムジョーめ…」
「あ。出来た」
「さすがですノイトラ様! 戦闘センスがこのようなところにまで良い影響を及ぼすとは…恐れ入ります」
「よーし、じゃあ皆で割って早く食べよう!」


そうして四人掛かりで卵を割れば一瞬で終わって、材料をぐるぐると掻き混ぜて、これでよし。
あとは――?


「で、テスラ。この大きいのどうやって焼くの?」


しーん。
その場が凍り付いた。





結局一枚ずつ
(焼くこと忘れてました)

おまけ
「おいアラシ、なくなった」
「こっちも」
「こっちも」
「貴様ら自分で焼け! 私まだ一枚も食べてない! 私のホワイトデー!」
「俺、四枚重ねたやつな。形も大きさもびっちり揃えろ。それ以外は認めねえ。せいぜい焼き続けろクソチビ」
「グリムジョー、ネックレスのこと言うの忘れてたのはマジで謝るからここで復讐しないでお願い」
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