「風邪ぇっ!?」
「…おう」
「ぼ、僕のことはいい…ノイトラ様の看病をしてくれ…」
珍しくグリムジョーがノイトラの宮に連れてきてくれたかと思うと、部屋に入るやノイトラとテスラがぐったりとしていた。
ノイトラはソファに寝転がっているし、テスラは床で伸びているしでかなり貴重な絵面だった。
「あーそっかあ、風邪かあ…てか破面なのに風邪引くってどうなの。グリムジョーもよくわかったね」
「こいつらの霊圧の緩急がうざってえ」
「あーね。うん。グリムジョーなら決して二人のためじゃなくて自分のために行動するってわかってたよ。えーと、じゃあ手始めに現世で薬買ってくるよ。グリムジョーはどうする?」
「行く」
「お、珍しい。やっぱり二人が心配――」
「暇」
「ですよねー」
面倒くさがるグリムジョーをどうにか説得して、ノイトラとテスラを寝室にあるそれぞれのベッドに運んだ。
温かい部屋にいるのにも関わらず、寒くてがたがた震えている二人に毛布と布団を掛けて、枕元にコップと水の入ったピッチャーを置いて、私達は現世に向かった。
* * *
大型のドラッグストアに入店するや、レジにいた女性陣の視線がグリムジョーに注がれる。
この髪色と身長と目付きに加えて黒のレザージャケットなんぞを着ているから怖いのか、あるいはイケメンだからなのか、とりあえず両方だろうと思いつつ薬を探す。
本当ならば病院に行ければいいのだけど、何せ現世では保険証なるものが必要になるので、それらを持っていない私達は受診することは出来ない。世知辛い世の中とはまさにこのこと。
ふむ。熱があった。けど鼻水と咳はなかったし、解熱剤でいいんだろうか。
有名どころの解熱剤を手に取り、カゴに入れる。あとはスポーツドリンクと、ゼリーとか軽食も買うか。
「おい、これ何だ」
「んー? それアルミホイル。金属のすっごい薄い奴」
「ぺらっぺらだぞ」
「料理に使ったりするんだよ」
ふーん。とか興味もなさげに棚に戻すグリムジョー。
それを横目にスポーツドリンクとゼリーをカゴに入れた。
あ、氷枕もあるといいかもなあ。おでこに貼るタイプがいいかな。どこにあるんだろ。
「何だこれ。ぶるぶるしてんぞ」
「うん? ん!? 何それ、どっから出したの」
「これ」
言いながら、消臭剤の入った透明のプラスチックケースを指差す。もしかしなくともケースの中身は空っぽだ。
床には包装されていたのであろうビニールが千切られて無惨にも散らばっている。
「だめだめだめ! 商品は開けちゃいけないんだよ!」
「ぶるぶるしてる」
「それは消臭剤なの。食べられないの。元に戻して、バレる前に帰っちゃおう!」
「ぶるぶるしてる」
「気に入ってんじゃない!」
ということで結局、その消臭セットも買って帰って来ました。どこに置くの、それ。
ひとまずノイトラ達に氷枕を作ってやり、スポーツドリンクを飲ませてやり、レトルトのお粥とゼリーを食べさせてやり、薬を飲ませる。
しばらくして落ち着いたのか、ノイトラが言った。
「アイス。アイスが食いてえ」
「おいアラシ! 今すぐアイスを買って来るんだ、ノイトラ様が所望だ!」
「あー、アイスね。気が回らなかったわ、そこまで。食べたくなるよね。わかった、もう一回現世行ってくるよ。何味がいい?」
「バニラ。デカいのがいい」
「りょーかい。テスラは?」
「キウイ」
「またマイナーな味を言いやがって…なかったら苺買ってくるからね」
「苺よりチョコ」
「わかったわかった。わがままかよ。グリムジョーは? さすがに二回も現世に付き合ってくれないっしょ?」
まだ消臭剤をぶるぶるさせているグリムジョーが答えた。相当に興味があるらしい。ケースごと振り回している。
「ミント」
「チョコミントね」
「違ぇよ、ミント」
「だからチョコミントでしょ?」
「チョコはいらねえ。ただのミント」
「んなアイス見たことないわっ! ミントガムでも食ってろ!」
「チョコはいらねえ」
「くっそ、お前ら手の掛かる子供だな!!」
けど律儀に探し回っちゃう私も私。
でも結局、ミントはなかったので、似た色のソーダ味を買っていったらクソ気に入ってたので良しとする。
三兄弟相手は疲れます
(腹黒に見えてしっかり者の長男ノイトラ、自由奔放の荒くれもの次男グリムジョー、長男崇拝の素直すぎる三男テスラ。何だかんだ面倒見のいい末っ子妹アラシ)
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