「カルビの美味さが異常」
私は焼き上げたばかりのカルビを三枚重ねて、たっぷりタレにくぐらせて頬張った。白米を掻き込む。美味い、美味すぎる、何だこの飯テロ。
ビールも進みますわ。
ぐびぐび。と飲んでいると横にいたグリムジョーが手を伸ばして網の上に乗っていた最後のカルビを取っていった。
「よしカルビ追加しよう」
「それではバランスが悪い。サンチュとキムチ等の野菜も必要だ。あとはナムルとチャプチェと」
「テスラ、お母さんみたいだね」
向かいにはテスラ。テスラの隣にはノイトラ。
そうです。
私達四人で現世の焼肉屋に来ております。
駅前にある、七輪で焼く焼肉屋で金曜日の夜ということもあってどこのテーブルもお客さんでいっぱい。騒々しくもあって、私達は少し大きめの声で話していた。
運よく座敷が空いていて、私は胡座をかいている。
「貴様の母親になったつもりはない」
とか言いながら焼けた牛タンを私の小皿に乗せてくれる。自覚なし、か。
さらに牛タンとハラミを皿をひっくり返して丸ごと網に乗せた。
焼き上がるまでしばし箸休め。
ビール追加。
「タンが美味え、タンが」
「あー、ノイトラはタン好きそう。何味が好きなの。タレ? 塩? レモン?」
「塩」
「っぽいわー。テスラは?」
「僕はハラミが気に入っている。脂がしつこくなくていい。しかしノイトラ様の仰る通りタンが一番美味しいのではないかと――」
「グリムジョーは?」
「僕の話を無視するな」
「グリムジョーは?」
「ちょ、僕」
「グリムジョーは?」
「…アラシの馬鹿野郎」
「俺は腹が満たせりゃ何でもいい」
「ぽいわー」
「強いていうなら熱燗」
「ぽいわー」
熱燗追加。
皆でお猪口を持って、それぞれ一気にあおる。何と爽やかな日本酒の香り。
焼き上がったタンとハラミが四方から伸びる手によって、あっという間に消えていく。
ついでにカルビを追加して、チヂミも頼んですぐにぺろりと完食した。人間ってこんな美味しいもの食べてるのか。
熱燗もビールも進んで、私がお腹いっぱいになる頃には三人とも出来上がっていた。
「うおおいアラシっ!」
「な、何」
向かいにいるテスラが目も虚ろながらビールジョッキを片手に大声で話し掛けてくる。
「どうしてお前はノイトラ様じゃ駄目なんだ! グリムジョーみたいな奴よりノイトラ様の方が包容力もあっていいじゃないか」
「テスラ飲み過ぎ。そのビール貸して」
「嫌だ!」
テスラの手からビールを奪おうとして、でも振り払われて出来なかった。結局、そのビールも飲み干してしまう。
グリムジョーは片膝を立てたまま、こっくりこっくり船を漕いでいるし、ノイトラはちびちびとカクテキを食べている。
「アラシの馬鹿野郎!! 今からでもいい、ノイトラ様のところへ来い!」
「ちょ、テスラ。しー! しー!」
テスラの声が大きすぎて店員さんに睨まれてしまった。
けれどテスラは辞めない。
「ノイトラ様と結婚しろぉ!!」
「もう少し声を落として頂けると」
「あ、すみません、すみません。すぐお会計して帰りますんで」
とうとう諫めてきた店員さんにお金を払う。
まだ外は寒いので上着を着せてやらないといけない。
まずは大人しく寝てくれているグリムジョーに上着を着せた。
次にいつまでもカクテキを小さく切りながら食べているノイトラ。
問題はこのテスラだ。
「ほらテスラ、もう帰るよ! コンビニ寄ってテスラの好きなもの買っていいから!」
上着を肩に掛けてやっても振り払われる。もう、こいつ上着なしでいいんじゃなかろうか。
けれど粉雪が降っているのが窓から見えて、そうもいかずに床に張り倒して羽交い締めにして、強引に袖を通してあげた。
「よ、よし。帰ろう、皆」
「なあアラシ」
「どうしたの、ノイトラ」
暴れるテスラを抑えていると、隣にいたノイトラが急に腕を掴んできた。ノイトラを見れば思った以上に顔が近くて身体が仰け反る。
近い。
「辛いポテチ、食いてえ」
「辛いポテチ? ああ、あれか。コンビニに売ってるからコンビニ行こう」
「立てねえ」
「なん、だと」
「連れてけ」
言いながら私の背中に乗ってくる。
重い。凄まじく重い。
ほとんど腰が直角に曲がりながら、座敷から立った。背中にはノイトラ、右腕にはテスラを引き摺りながらグリムジョーを呼ぶ。
「グリムジョー! 帰るよ!」
寝ている。
「グリムジョー!」
やっぱり寝ている。
こうなってはただでは起きてくれないので申し訳ないと思いながら、仕方なく足で軽く小突くことにした。
「起きやがれ! この俺様野郎!」
(申し訳ないと思いながら、仕方なく、軽く)
「早く起きろってんだ! この水色頭様が!」
(仕方なく、軽く)
すると突然、私の足を掴んで、のっそりとグリムジョーが顔を上げた。
わお。
切れてらっしゃる。
「ああ? 誰に物言ってやがんだドチビ」
「あ、今のは切羽詰まった危機的状況から出た咄嗟の一言というか、全然そんなこと思ってないし、一ミリも思ってないし、ほら、言葉のあやといいますか何というか、ハイごめんなさい」
「てか何でその野郎と抱き合ってやがんだ」
「ノイトラが歩けないんだってー。抱き合っとらんし、手伝ってくれよ」
「おいクソ野郎。アラシから離れろ」
「うるせえ6番、あっち行け」
しっしっ、と手をひらひらさせるノイトラ。もちろん私に抱き付いたまま。テスラはとうとう熟睡モードに入ってるし、厄介なことになったと嘆息つく。
グリムジョーがノイトラを引き離そうとするたびにノイトラの腕が私の首に食い込んで相当に苦しい。
私は絡まれながらも何とか店を出ると、道にはまだ通行人がたくさんいて注目を浴びた。
そりゃそうだ、こんだけ高身長でイケメンが三人揃って騒いでるんだから。
「アラシから離れろ」
「うっせえんだよ6番のくせに。いちいちいちいち、小姑かよ。俺達はコンビニ行くからテメエは先に帰ってろ」
「この蟷螂スプーン野郎が!」
「やんのかテメエ」
「ノイトラ様、援護はお任せください…何なりとお申し付けを」
「辞めんか、本当にもう!」
寝言で参戦しようとするテスラと、今にもおっ始めそうな二人を宥めながら、私は一歩も進めずにいた。
どうしてくれよう、この三人。
今ここで虚圏に帰る道を開こうか。けどたくさん人間いるし。見られたら困るし。あー、どうしよう。
半ば絞首されつつ、グリムジョーとノイトラに左右に揺さぶられながら思考を巡らす。
服はびよんびよん伸びて肩がはみ出ております。寒いよ。服、破れちゃうよ。
「…何してんだ?」
そこへ聞き覚えのある声がして、振り返った。
オレンジ頭、石田雨竜、茶渡の三人が立っていて、私達を驚いたように見つめていた。
救世主かよ。
思わず叫んだね。
助けてください!
(グリムジョーはオレンジ頭に、ノイトラは茶渡に、テスラは石田に引き摺られて行きました)
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