死神 | ナノ


其れがたる所以  


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眠っていると、頭上にある窓が「こんこん」と高い音を立てた。

課題をしている途中でいつの間にか机に伏せて寝てしまっていたらしく、手にはまだボールペンが握られている。

やってしまった。

こうこうと注がれるデスクスタンドの光が眩しい。
最近、ベッドで眠ることが少なくなっているせいで軋みのように関節が鳴った。眼鏡を整えながら顔を上げる。

ん?
そもそもここは戸建の2階にある自室であって、窓がノックされるなんてことはありえない。
やっと頭が冴えて、慌てて外を見た。


「開けてー」
「ちょ、何やってるんだ」


窓にはアラシさんがへばりついていた。
ベランダのない、ただの窓にどうやってくっついているのかわからないけれど、掌や頬が吸盤のように貼り付いている。

アラシさんがいるのとは反対側の窓を開けて、腕を掴んで室内に引き入れると、僕達は重なるようにして床に転がった。
アラシさんが頭を打たないように抱き止める。


「ぶはー助かった。あと数秒でも遅かったら剥がれて落ちてたわー」
「まったく…ひとりで来たのかい? 死神には会わなかった?」
「平気ー。死神とは和解出来たというか何というか。ギンのおかげで、私のことは破面だけど襲わないって約束してくれた」
「何があったかは知らないけど、死神を味方につけたのは得策だったと思う。でもこっちには手強い虚だっているし、気を付けるんだよ。僕がいつでも護れる訳じゃない」
「あい、わかった。…ん? 護ってもらったことあったっけ?」
「…そんなことより何をしにきたんだ? こんな雨の中。びしょ濡れじゃないか」
「タオル返しに来た」


ほい。と懐からタオルを取り出してくるアラシさん。

そういえば随分と前に雨に濡れたアラシさんにタオルを貸して、同じく雨の日に返してくれると約束したのだった。弱い破面のアラシさんとの小さな約束だ。

それにしても。


「…タオル、濡れてるね」
「何たる誤算。まさか今日の雨がこんなに本格的にやりに来てるとは思わなかった。うーん、またの機会にしようか? 濡れてるのを返すのも気が引けるというか」
「構わないよ、これで。新しいタオルと着替え持ってくるから、ここで待ってるんだよ」
「はーい」


僕はアラシさんの手から懐かしささえ感じるタオルを受け取り、風呂場へと急いだ。洗濯したばかりのタオルを取る。次にウォークインクローゼットに立ち寄り、女性物の服を持って部屋に戻った。

アラシさんはカーペットが濡れないように、わざわざフローリングに立っていた。といっても僅かな隙間しかなく、爪先立ちになっている。


「妙なところで律儀だね」
「褒めてくれてる?」
「そう受け取ってもらって構わない」
「いえーい」


タオルをアラシさんの頭から被せて、半ば乱暴に拭った。ある事実に気付いてしまって、動揺していることを隠すためだ。

この家には誰もいない。
つまり、僕の部屋にアラシさんと、二人きり――。


「じゃあ僕は外に出てるから着替えて。濡れてる服はこのビニールの中に」
「あい」


そうして部屋を出て「終わった」と声が掛かってから戻った。

アラシさんに渡した服は、鮮やかな青色のワンピースだ。長袖、膝丈の。

君が一番、好きな色。


「凄いね、これ。サイズぴったり」
「僕が作ったものだからね」
「あー、手芸部ね」


くるくると回ってみせてくれるその姿はどこか無邪気で、彼女が破面であることを忘れさせる。

けどスカートの裾が捲れ上がるのも気にせずに回転するものだから実に目のやり場に困る。


「今度はこの服を返しに来なきゃだね」
「いや、必要ない。君にあげるよ」
「この服? 貰っていいの?」
「いいよ」
「え、本当に?」
「あげる。その代わり、時々、会いに来てくれないか。指慣らしに服を作っても貰い手がなくて困っている。溜まっていく一方なんだ。収納にも限りがあるし、君が引き取ってくれると助かるのだけど」
「すご! ありがとう! いつでも来るよ!」


僕は眼鏡を整えた。
どういう顔で、どう返事をしていいのかわからなくなる。

服はついでで、本当は会いたいのだという本音をどうすれば上手く隠せるのか、わからなくなってしまう。
だって、こうでも言わなければ会えないから。
会う理由を見つけなければ君とは、きっと、会えないだろうから。


「本当に凄いなー、これ。サイズもぴったり合ってるし、一番好きな青空色だし、何か私のために作ってくれたみたい」
「えっ――」
「え?」





なぜバレたし
(てか背中にある大きなこの十字架のデザイン、ださくない?)
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