「ねーねー、帰刃して」
アラシがノイトラ様と僕がいる部屋に入ってくるなり、まさかの僕に第一声を浴びせてきた。
「どうして帰刃しなきゃいけないんだ。まずノイトラ様にご挨拶しろ」
「ノイトラ、ぐっもーにん」
ノイトラ様は手を上げて返事とした。ノイトラ様ではなく、僕に用があるアラシに拗ねてしまったのか、不機嫌そうにソファにふんぞり返ってアイスを食べている。
以前、アラシから美味いと勧められたもので、命じれて僕が地下の貯蔵庫に大量搬入してきた。以来、そればかり食べているため栄養面が気にかかる。後で特製ノイトラ様専用の野菜ジュースをお持ちしよう。
「帰刃しておくれ、ほれほれ」
「何かさせる気じゃないだろうな」
「大丈夫ー。ちょっと触るだけ」
嘆息つきながら解号を唱える。
帰刃をすると、足にアラシがまとわりついてきた。
「抱き上げておくれ」
「貴様…きっちり説明してもらうからな」
「うむ、よしに」
アラシを掌に乗せて、胸の高さまで持ち上げるとアラシはそこから身体をよじ登った。
非力なアラシの握力にくすぐったさを覚えながらも、黙ってやらせてみる。するとぐるりと首の周りを一周して、うなじのところで止まった。
「これでよし!」
「何してるんだ?」
「戻りまーす」
すいー、と身体を滑り台にして掌に戻ってくる。僕に向き直って、得意気に腰に手を当てて笑ってみせた。
「それ、バレンタインのプレゼント!」
「え?」
指差しされた首元を見てみると、ネックレスが掛けられていた。
白色の紐で、金属製の円形の飾りがぶら下がっている。ノイトラ様の鎌に似せたものだ。綺麗な円の中心は、数字の「5」の形にくり貫かれていて、表面は銀色なのに角度を変えれば金色にもなるようだ。
ちらり、とアラシを見ると、まだ笑っている。
「もう十刃はなくなっちゃったけどテスラはずっとノイトラの従属官でしょ? だからその証!」
死神との戦いに終止符が打たれ、僕達は存在の意味を問われ始めていた。もとより死神を滅ぼすために作られた破面なのだから、その創造主が消えた時点で僕らは不必要なものになってしまう。
特に従属官という制度そのものにすら疑問を抱くほどには、というより無意味であると思えてしまうほどには、僕らの存在は取るに足らないものになってしまった。
従属官であるといっても、それを認めてくれるものは誰もいない。
自称、従属官。
けれどアラシは、それを見える形にしてくれたのだった。
「カナヅチで頑張って作ったんだよー。その紐は自然に伸び縮みする特殊な材質でね、普段の姿に戻ってもびよんびよん伸びてないで、ちゃんとネックレスの長さになるから安心してね。私が結んだから、ほどけやすいかも。それからねTESRAバージョンも作ってみたんだー。数字のところがテスラの名前になってんの。ほれほれ。これも付けてみる?」
アラシが何事かを早口で説明してくれているけれど、もはや視界が滲んでいるのと嬉しさのあまり聞こえていない。取り敢えず疑問符を投げ掛けられたから小さく頷いて返した。
またアラシが首の後ろまで上ってきて、もうひとつのネックレスを掛けてくれる。
そうして掌に戻ってくると、不覚にも涙が溢れてアラシを濡らしてしまった。
帰刃したこの身体での涙は一粒が大きく、アラシは濡れそぼってしまっている。
「ん? 何で室内で雨が降るんだ?」
「降るわけないだろう」
「だよねー。はっ! まさか…テスラ…」
「な、なんだ僕はけして泣い――」
「よだれ?」
希望通り、口に放り込んでやった。
不要の怖さ
(それを知っている君だからこそ)
おまけ
「テスラ」
「はいノイトラ様」
「アラシからのプレゼント、傷ひとつ付けんじゃねえぞ。せっかくあいつが作ったんだ護り通せ」
「はい」
「それから」
「はい」
「俺に絶対見えないようにしとけ。見えたら殺す。てか奪い取る」
「はい?」
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