死神 | ナノ


其れがたる所以  


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雲ひとつない快晴。

かんかん照りの太陽が眩しくて、思わず目を細めてしまう。
加えて忌々しげな眼差しを向ける。

暦は8月を迎えようとしている7月の終わり。

うだるような暑さの中、世間の学生は夏休みだと浮かれ騒いでいる。

私も普通の高校生として過ごしているけれど、心はここにあらずといった日々がもはや2年は続いている。

グリムジョーがいなくなってから、早かったのか遅かったのか、長かったのか短かったのか、感覚すらないけれどとにかく2年。

あの日、グリムジョーは再びオレンジ頭と戦いに行くのだと言っていた。

私を連れていくことは出来ない、だから離れていくと、彼は行動に移した。

全てが終わったら、何もかもが終わってグリムジョーが無事でいたなら、私の大好きなメロンパンを持ってきてくれると約束してくれた。

だから私はあの日以来、メロンパンを口にしていない。

朝御飯も、学校で一人食べるランチも、夜、屋根にのぼってグリムジョーを待ち続けるその瞬間さえ、メロンパンには手を出さなかった。

グリムジョーから貰うメロンパン以外、メロンパンなんていらない。

しかし空腹というものは不思議と襲ってくるわけで、私は焼きそばパンを鞄から取り出して頬張った。

夏休み前、最後のお昼休みだった。

友達はいない。



「きゃあ!」



そのとき、廊下がけたたましく騒がしくなった。

騒がしさが近付いてきているのがわかる。

私も当然、何だ何だと視線を送る。

そしてその根源が、教室の出入口に立った。

私は思わずパンを落としていて、相当なアホ面になっていたに違いない。

もしかしたら焼きそばが唇からはみ出ていたかもしれない。

そんな頓狂な顔の私を見つけて、彼は相変わらず口端を吊り上げて笑った。



「ちゃんとやってんじゃねえか」



私が何も言えないでいるのを面白がるかのように、ずんずかとあの歩き方で歩み寄ってくる。

自然と彼を避けるように道ができて、私とグリムジョーが対峙したときには人だかりに取り囲まれていた。

座ったままの私を、にたりと笑いながら見下ろす。

そして机の上に、メロンパンを放り投げて寄越した。

いつもくれていた、あのメロンパン。

私は震える手でようやくそれを手に取った。

軽くも懐かしいこの感触。

長かったこの日々の終わりがこの手の中にあるのだと、まだ実感出来ない。

もう一度、グリムジョーを見る。

何の反応も示さない私に、不機嫌そうに眉根を寄せる。



「あ? 来ねえのかよ、ペット」



言ったグリムジョーの何たる勝ち誇った顔か。

けれど私は周りの目なんて一切忘れて、グリムジョーの胸に飛び込んでいた。

グリムジョーもそれを受け止めて、ただただ強く抱き締めてくれる。

少し痩せたこの体。

けれど香りと力強さは寸分と違わない。

思わず、泣いた。



「遅い。遅いよ!」



「御主人様に歯向かってんじゃねえよ」



言いながら、グリムジョーは私を抱いたまま窓の手摺に足を掛けた。

強引なところも変わっていない。

何も変わっていない。

その事実の歓喜はきっと、グリムジョーにも伝わってしまっているのだろう。



「ガッコウってのは、もう満足か?」



答えなんて知っているくせに意地悪く聞くグリムジョーの声が懐かしい。

全部、1度失ったものだから余計に恋しく感じてよりいっそう抱き締めた。



「いらない。グリムジョー以外、何もいらない」



グリムジョーは私の回答を聞いて満足したのか大きく笑って、そのまま4階の窓から飛び出した。

教室から悲鳴が聞こえたけれどもうあそこに私の居場所はない。

私の居場所はグリムジョーの傍でしかなくて他にはない。
いらない。

グリムジョーを見上げれば、髪が輝いていた。





空みたい
(たとえ奈落の底だとしても貴方がいればそこはきっと)
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