死神 | ナノ


其れがたる所以  


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ノイトラの手指は細長い。
指というより彼の身体全てなのだけれど。

そんな細さとは想像もつかないほどの怪力には、いつも驚かされる。

私を肩に乗せて持ち上げても、まるで小鳥が枝木にとまって囀ずっているかのごとく涼しい顔をしている。

そしてそれとなく、その細長く綺麗な指で私を支えてくれるのだった。
日常の中で、あまりにも小さすぎて見逃してしまいそうなところにこそ、ノイトラの優しさが滲む。
もっと表現すればいいのに、とは思うけれど、そこが彼のいいところだとも思う。

時は虫をも眠る刻。
場所はアパートのトタンの三角屋根の上。

満月の明かりだけで、充分、手元も景色も見えた。

そんな中、いつも同じじゃつまらねえだろ、とノイトラが言い出して肩に私を乗せてくれたのだった。

見方を変えてみろ、と。

2mを越える彼の身長の左肩に座ると、景色はまるで違った。

いつもより空と月が近く、いつもより遠くが見えて、いつもより、世界が広く感じられ、そしていつもより、孤独感に襲われた。



「わ。高い高い」



「だろうな」



「ノイトラの見る世界は、いつもこの世界なのかあ。凄いなあ。高いなあ」



言うと、ノイトラは誇らしげに、ふん、と鼻で笑ってみせた。

それが何だか少年のように可愛らしく思えて、思わず頬が緩んでしまう。
2m越えの身長など、ほとんど見掛けない。
紛れもなく彼の長所であるといえた。
それを褒めて喜ぶのだから、ノイトラも根から非道という訳ではなさそうだ。
ノイトラにも感情があるとわかる仕草だった。



「何笑ってんだ」



「べつにー」



「下ろすぞ」



「ごめんなさい」



私は月に手を伸ばそうとして、辞めた。

届かないものに手を伸ばしても、結局はその距離を突き付けられて虚しくなるだけだ。



「ノイトラー」



「なんだ」



「ノイトラみたいに背が高くても届かないものもたくさんあるのに、他の人より近いから希望があるんじゃないかと思って寂しくならない?」



束の間、ノイトラは黙った。

私を見上げるのが気配でわかる。

私はそれには応えずに地平線を探そうと前を見据えていた。

地平線など、ありはしなかった。

空と陸の境界線など見えなくて、家々がそれを曖昧に汚している。

地球の形さえわからない。

こんなものの、何が美しくて人間はこの世界に固執しているのだろうか。

殺人、強姦、盗みに脅迫。

人間の行為は他のどの生物たちよりも残酷なくせに自分たちは他の獣よりも優秀で心があると勘違いしている。

そんなものの、何が美しいというのか。

何もかもわからなくなってしまっていた。



「そんなの、決まってんじゃねえか」



「寂しくならない?」



「ならねえよ。そんなの、弱え奴が感じるもんだ」



「そっかあ」



「だから見方を変えてみろっつってんだ。おめえは物事を偏屈に捉えすぎる。俺の世界を見て、おめえは何を思ったんだ」



私は感じたことを素直に伝えた

予想通り、はっ!と盛大に鼻で笑われた。



「他人より届きそうで、だが届かねえ。他人より広い世界にいる。他人より汚えもんが見える。

それの何が悪い。

届きそうで届かねえから、そのぶん、強くなれる。
広い世界にいるから、汚えものを知ってるから、そうでないものを見付けられる。

背が高えから、おめえを肩に乗せて別の世界を見せてやれる。

それだけありゃ充分じゃねえか」



なんと、どうやらノイトラは慰めてくれているらしい。

私が偏屈で、物の見方に対して臍を曲げそうになっているから、それを阻止しようとしてくれているらしい。

肩に乗せてくれるというのが、まさか阻止のためだったなんて遠回りにも程がある。

ノイトラもまた、不器用な奴なのだ。
素直に伝えられない、不器用。



「わかったよ。ならそう思えるように強くなるねー」



「あんま強くなりすぎんじゃねえぞ」



「なぜに」



「俺より強くなったら、俺はおめえを倒さなきゃならねえ。女のお前が、俺より上になるっていうのはそういうことだ。だから、辞めとけ」



「それって私を倒したくないし、出来るならずっと一緒にいたいからそこまで強くならなくていいっていう愛の告白だったりしてー?」



冗談めかして、笑いながら言うと、ノイトラは唇を悔しそうに噛んでそっぽ向いてしまった。

その耳の何たる赤いことか。





鈍感だと思いきや
(なんで言い当ててんだよこいつは)
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