「で? 君達の名前は?」
職務質問されてます。
(人生初です)
夜の現世に遊びに来て「恋人との自転車の2人乗りは青春の1ページらしい」なんぞと私が口走ってしまったものだから、グリムジョーが駅前にあった古びた自転車を掻っ払って来てしまった。
施錠されていた馬蹄錠を蹴りのひとつで破壊して、何の悪気もなしに股がってから私に「乗れよ」と言ってくるあたり心底唯我独尊男だと思う。所有者すまん。
そして初見でいきなり自転車を乗りこなすグリムジョーの背中に引っ付いて走ること5分。
これが青春かー。なんて呑気なことを考えていたから背後から近付くパトカーにまるで気付かなかった。
「そこの2人乗り止まりなさーい」
その一言でグリムジョーが「あ? 殺されてえのか?」と喧嘩っ早い性格が災いして、自転車を止めてパトカーに歩み寄る。
(むしろほとんど自転車を投げ出していたので路肩に停めたのは私だけどもな)
そんなグリムジョーにお巡りさんも警戒心を剥き出して質問してくる。目が怖いんだよなあ。グリムジョーもお巡りさんも。
「名前なんざ聞いてどうすんだよ、殺されてえのかハゲ」
(注※ ハゲてはいない)
「まあまあ、これが警察のお仕事だから。私はアラシで、彼はグリムジョー・ジャガージャックです」
私がグリムジョーを嗜めながら答えてもお巡りさんの鋭い目はグリムジョーを睨んだままだった。
「外国人か? どこから来た?」
「虚圏」
「は?」
「ちょちょちょ、ちょーっとまだ日本語が辿々しくて! グリムジョーは、えーと、スペイン! スペインから来てるんです!」
「スペインのどこ? 何してる人?」
「破面第6十刃」
「は?」
「黙ってろい! スペインのー、あー、えー、バルセロナ! 仕事はしてません!」
「パスポートは?」
「パスポート? 何だそれ」
「不法入国か!?」
お巡りさんがいっきに色めき立つ。
私は慌てて、さらに間に入った。
「パスポートだよ! ほら手帳みたいな奴!」
「知らねえ」
話を合わせるという概念が皆無のグリムジョーの擁護はどうやらここまでのようです。
お巡りさんは無線で応援要請しているし、路肩には盗んできた自転車もあるし水色頭様は確かに不法入国者だし身分証なんてないし、むしろこの態度からしてアウトだし。
私は頭を抱えてグリムジョーの腕を掴んだ。
訝しげに私を見下ろしてくるグリムジョーに小さく呟く。
「響転」
それだけでグリムジョーは察してくれたらしかった。
私を抱き上げて、次の瞬間には見たこともない景色が広がるビルの屋上にいた。
遠くではパトカーのサイレンがけたたましく鳴り響いている。
本当に現世に来ると平穏に過ごせた試しがない、と嘆息ついた。
私はグリムジョーに抱き上げられたまま、いつもの見上げるのとは違う、グリムジョーと同じ高さで視線を交わした。
「トラブル続きだね」
「青春、出来たじゃねえか」
「ま、それもそうか。なかなか楽しかったし、よしとしよう」
「良く出来た嫁だな」
「最高の褒め言葉です」
屋上には誰もいなくて、眼下には車のライトや街路灯、ビルの電灯やらが輝いていて普段は夜景なんぞに興味のない私もグリムジョーとなら何だか綺麗に見える気がした。
風が吹いて、揺れた私の髪がグリムジョーの頬を撫でると不快そうに、あるいはくすぐったそうにグリムジョーが一瞬だけ目を細めたのが見えた。
「変なの」
「あ?」
「夜なのに、朝みたい」
言うと、グリムジョーはにやりと笑って抱き寄せてくれた。
瞳の色
(その水色はどんな輝きも足下にも及ばない)
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