死神 | ナノ


其れがたる所以  


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読書の秋、スポーツの秋、行楽の秋。
とにかく暦は既に秋口を捉え、すっかり肌寒い。夏では楽だったタンクトップも今ではパーカーの中に隠されている。冷たい風が吹いて、私はフードを被り直した。


「ねえ、お腹空かない?」
「ねえよ。唐揚げ弁当と鶏そぼろ弁当と握り飯5個とパン2個とヨーグルトとアイスとシーザーサラダを30分前に食い散らかしといてどこの口がほざいてんだ馬鹿」
「しくしく」
「泣き真似してんじゃねえよ」


ぴん。とグリムジョーの力強いデコピンを食らって仕方なく寝転がった。

ここは現世の有名な大きい公園。
紅葉が凄いらしいという噂を聞きつけて連れてきて貰った。空は残念ながら曇天なのだけれど眩しすぎず、暑すぎず寒すぎずなので、まあよしとしよう。
適当な芝生の上にレジャーシートを敷いて、買い込んだランチを平らげたのがグリムジョーいわく30分前らしい。

既に小腹が空いたお腹をぽんぽんと叩けばなかなかに良い音がした。太鼓か。

隣では読書に目覚めたらしいグリムジョーが漫画のページをぺらりと捲ったところだった。


「秋だから読書?」
「んな訳あるか。暇だからに決まってんだろ」
「ですよなー。私も文字が読めればなあ。漢字苦手なんだよなあ」
「本が読みてえのか?」
「んにゃ。暇潰しをしたい」
「だろうな」


言って、グリムジョーはぱたんと本を閉じて私の隣に寝転がった。後頭部で両手を組んで、さらに足を組むその姿はどこからどう見ても麗しいイケメン。

顔もよくてスタイルもいいとかどういうことですか。


「何だよ」


目を瞑っていたグリムジョーが私の視線に気付いて舌打ち混じりに訊ねてきたので「べっつにー」と返してまた空を見た。

葉が紅く染まっている。

風が吹くとからからに枯れた葉だけが飛んでいって、乾いた波のような音がする。

私はぽつり、呟いた。


「私達、これからどうなるのかねー」


グリムジョーが「あ?」と訊ね返して来たので続けた。


「藍染いなくなったし、破面は増えないし、これから何百年も生きていくのに毎日どうやって過ごしたらいいのかねー。グリムジョーも戦ってないと退屈っしょ。もし戦いの中でグリムジョーが死んだら私どうやって生きていくんだろ。何して過ごせばいいかな、これから何百年も」
「馬鹿」
「わお。結構、真面目なトーンで聞いたというのにこの仕打ち。奥さんに対してこの仕打ち」
「馬鹿」
「二度も言いやがるとは」
「明日は別のところに行く。明後日はまた別のところに行く。その次もその次も。んで日本中全部見尽くしたら今度は海を渡る。世界を回るのにどれだけ掛かると思ってんだ」
「そっかあ。じゃあ世界一周しちゃったら?」
「また日本に戻ってくる。そんときにはまた新しい何かが出来てる。飯だろうが場所だろうが何だろうが、とにかく何かが出来てる。それを二人で見に来ればいいだけの話だ。見尽くしたらまた世界に行く。世界で新しく出来た何かをまた見る。それの繰り返し」


私は思わずグリムジョーを振り返った。
何でもないような横顔をしているけれど、その形の良い唇から紡ぎ出された発想がいかに凄いかを私はきちんと理解している。

つまり新しい何かは生きていく限り延々と生み出されていく。
新しい料理かもしれない。場所、本、映画、ゲーム、とにかく色んなものが作られていく。生きている限り、それらを見終わることはない。
だって生まれ続けるから。

時間は止まらないけれど変化も止まらないということ。グリムジョーはさらりと私を元気付けてくれたのだ。


「天才か、おぬし! ちょ、天才と呼ばせてくれ」
「絶対呼ぶんじゃねえ」
「ねえ天才!」
「黙れチビ」
「ぐっ! その単語はダメージが…。まあ言うてもグリムジョーが生きてたらの話でしょー。最近は弱い奴しかいないから余裕で喧嘩も勝ってきてるけど世界に出たら強い奴もいると思うよー? グリムジョー死んだら遊んでも楽しくないよ」
「馬鹿が。俺が死ぬときに俺がテメーを殺してやるよ」
「ほんと?」
「ああ」
「約束ねー。虚閃とかじゃなくてちゃんとグリムジョーの手で殺してくれよー」
「ああ、殺してやる」


他の誰にもやらせない。
続いたその言葉の意味をグリムジョーにとって最上の愛情表現だと受け止めてもいいのだろうか。

グリムジョーの横顔を見れば先よりも少しだけ口元が微笑んでいて、私も釣られて笑う。受け止めても良さそうだ。

もう一度、空を見上げた。


「お、晴れてきた」





一歩一歩今日のその先へ
(抱き付いたら肘鉄されたんですがどういうこと)
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