成績は下の下。いや下の下の下の下。
顔とスタイルは上の上。
と来たアラシさんの運動神経に関しては全く予想が付かない。
今は体育の授業中。
体育というものは個人で行えるものはほとんどなく、だいたいがチームを編成して勝負をする。
サッカーであったりバスケであったりテニスであったりと、とにかく対戦相手を要するものだ。
個人種目といえば持久走や短距離走くらいのものだけれど、それは連続ではなく単発的に時々カリキュラムに組み込まれているだけで、ほとんどの授業が仲間を必要とする。
その点はアラシさんにとって酷といえた。
僕らのクラスは女子が奇数人数であるため、二人組を作ろうとするとどうしても余りが出る。
それがアラシさんだ。
今もバドミントンの授業であるにも関わらず、ラケットを持って体育館の壁に寄り掛かってしまっている。
捲り上げていた少し大きめなジャージの袖を手首まで戻して、とうとう座り込む。
投げ出した足の上でくるくるとラケットを弄んで暇を潰しているらしい。
彼女の目の前には何組ものペアが楽しそうに羽根を飛ばし合って、そこかしこから笑い声が響いていた。
現状を教師は見てみぬふりをしている。
アラシさんが浮いているのは今に始まったことじゃない。ペアを作れと指示を出した瞬間、中央にぽつんと取り残されるアラシさんを見るのはもう何度目か知らない。
僕は床に落ちていた羽根をラケットで掬い上げてガットに乗せ、軽くアラシさんの方へと叩いた。
ぽすん、と頭に当たってどこから飛んできたのかときょろきょろ見回すアラシさんと目が合う。
「取ってくれるかな」
「ほいよ」
ところが手で投げ返してきたせいで羽根は僕達の途中で力なくひょろひょろと落ちていった。
「お? ごめんごめん」
アラシさんは立ち上がって羽根を取る。手渡してきて、だが僕はそれを受け取らなかった。
「投げて返すなんてね。もしかして打てないの?」
「にゃにおう」
「運動神経悪い?」
「そこまで悪くない、はず」
「じゃ見せてよ」
後退して「はい」と告げてラケットを翳してみせると、アラシさんはしぶしぶとばかりに羽根を打った。
僕も打ち返す。
またアラシさんが打ち返す。
と、思いきや空振りして顔に当たった。「ぶ」という情けない声が僕まで届いてくる。
「下手くそ」
「なん、だと…」
「それかなり聞き覚えのある台詞だから辞めてくれるかな。ほら、次」
「ぐぬぬ」
そうして打ち合い続けて、アラシさんは空振りし続けて、僕が教えてあげたら少し良くなった。
それらを繰り返していると、いつの間にか授業終了のために集合が掛かった。
乱雑に集まった生徒達の最後列で僕らは隣同士に立っていて、アラシさんが前を見据えたまま呟いた。
教師が何事かを話しているけれど聞こえない。
「こんなに早く終わった体育、初めてだった」
僕は表情を悟られないように俯き加減に眼鏡の位置を治した。
「こんなに運動音痴の女の子、初めて見た」
「けっ!」
どの言葉が正解だったのか
(放っておけないと喉まで出掛かった)
(1/1)
[*前] | [次#]
list haco top