死神 | ナノ


其れがたる所以  


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「「またか」」

僕とアラシさんは互いに見合って、ほぼ同時に呟いた。

夏が明けて新学期。
これまでこのクラスで二度の席替えが行われてきたのだけれどその全てがアラシさんの隣席であった。
三度目を迎えた今日、くじを引いて席を移動したらこれだ。何の陰謀があるのか、どうやらまたアラシさんと隣らしい。

代わり映えのしない風景を見飽きたとでもいうように嘆息混じりに僕達は席に着いた。
すると間髪入れずにアラシさんは習慣のごとく空を見上げる。

外は快晴で、水色よりも僅かに深い青がずっと遠くまで広がっている。彼女はそれを見つめていることが多々あった。
何かを探すように、あるいは何かを待つように。

かと思っているとたった今教師から手渡されたばかりの日誌を机上に広げて、ボールペンを手に携えた。
黒板を見れば右端に日付と、その下に日直としてアラシさんの名前が記されている。


「いちじかんめ、ホームルーム、せきがえ、と」


時間割を記入する欄に少し角張った歪な文字がちらりと見えた。


「漢字で書いたらどうだい」
「字、苦手なんだよね」


アラシさんは僕を見ようともせずに答えた。
いつもそうだ。アラシさんを見るのは僕ばかりでアラシさんは他を見ている。


「次がすーがく、たいいく、にほんし…えーとあとは」
「苦手っていうレベルじゃないよ、それ。ちゃんと勉強して来ないと」
「おや、馬鹿にしないなんて珍しい。何だか字が書けない理由をわかってるみたいな言い方だね」
「…別に。貸してごらん、僕が書いてあげるからそれを見て覚えるといいよ」


そう言って手を差し出すと「あざーす」と軽い口調で日誌を渡してくる。
彼女が書けば10分は掛かるだろうというところを僕はその三分の一で終わらせた。

日誌を突き返せば「おお」と彼女が感嘆を漏らす。


「そうだった、こんな字だったや」


言いながら律儀にノートへ読み方と漢字を書いて何度も練習していくアラシさんはどうしてか友達がいない。

いつもひとりだ。

黒崎には茶渡くん達がいて、僕には少なからず手芸部の部員が声を掛けてくる。

けれど彼女には誰もいない。

まるで世界に突然現れたかのように彼女の過去を知る人がいないのだ。中学も小学校も幼少期も。
その理由を僕はわかっている。


「それじゃ『度』だよ。『席』はこう『席替え』」


彼女のノートの隅に書き加えてあげると「むむむ」と悔しそうに口を引き結んでまた練習をする。
こんなに素直で律儀で頑張り屋なのに、世界はどうして彼女を嫌うのだろう。
(呪いが掛かっているとでもいうのか)

ふと、開けられた窓から風が吹き込んできた。
ぶわりとカーテンを巻き上げる。

風と共にアラシさんの香りが揺れてきて、僕は目を細めた。

君には青空が似合う。

いつか言えるといい。そんな素直な心の内を。


「それじゃ『教学』だよ、スウガクはこう。『数学』」
「くっそ!」





本当は嬉しかった
(君の隣は居心地がいい)
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