死神 | ナノ


其れがたる所以  


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カタンと、何かが動く音がした。
うとうととしていた私の意識はその音により、物凄い勢いで現実へと引き戻される。
起き上がろうとして、無骨な手に後ろから抱きすくめられた。
首を巡らせると、いつも通りグリムジョーの青空色の髪が首や頬をくすぐってくる。ぎゅうっと抱かれて、グリムジョーの吐息が首筋を撫でてくすぐったい。
起きたいのと、くすぐったいのとで身をよじると、それすらもさせまいと抱かれる力が強まった。


「グリムジョー、ごめん起きたいんだ。何か音がした。ウルキオラ様の目が覚めたのかも」


死んだと思われていたウルキオラ様を発見して、手当てをして部屋で休ませている。ザエルアポロが投与した麻酔の効力はとっくに切れているはずなのに、ウルキオラ様は目を覚まさない。
いつ起きてもおかしくないので、私は自然と物音に敏感になっていた。

グリムジョーが眠たそうな声で返事をした。


「まだだ。まだ、あいつは起きてねえ」
「でも──」
「霊圧の強弱でわかる。あいつは普段から戦ってるときも会議のときもほぼ一定だが、それでも寝てから起きると多少なりとも変化はある。今はそれがない。だから、まだ寝てる」
「そっか。わかった。……でも一応、見てこようかな…」
「いいから寝てろ」


ぺしっと額を軽く指で弾かれてしまう。
叩かれたところを撫でていると、また睡魔が忍び寄ってきた。
ウルキオラ様が気にかかるのと、眠いのとが私の中で熾烈な戦いを繰り広げている。けれど、グリムジョーがそう言うなら、そうなのだろうなとも思う。現に隣の部屋で眠るザエルアポロも動いている気配がないし、今はとても静かだ。
キングサイズのベッドの真ん中でグリムジョーに抱き締められながら毛布にくるまっている。私よりも大きな体を持つグリムジョーの腕の中にすっぽりと収まって、何からも護られている状態で、暖かくもなく、寒くもないこの室内で、眠くなるなというほうが無理難題なのだ。

瞬きをするたびに、焦点が合わなくなっていく。
頭の中がぐらぐらして、ぼんやりして、夢の中に落ちていく。

カタン。

はっとして、今度こそ起き上がろうとした。


「大丈夫。大丈夫だから」


そしてまたグリムジョーに抱かれる。耳元で諭されて、ベッドに体を沈めるものの耳はウルキオラ様のいる部屋のほうへ集中していた。


「大丈夫だから」
「でも…ウルキオラ様、もう一週間も眠ったままだから」
「ああ、そうだな。わかってる」
「このまま一生、ずっと起きないのかなって心配になっちゃって…ごめん、グリムジョーも寝たいのにね」


グリムジョーは何も言わなかった。
吐息の深さ、体の温かさを考えるとグリムジョーはとてつもなく眠いのだと思う。元々、一度でも眠りにつくと、体が、睡眠は十分だと感じるくらいにまで眠り続けないと全く起きない体質の人だ。一週間もこんなに睡眠を妨害されていたら、眠くもなるだろう。
いくらグリムジョーだって、ウルキオラ様の霊圧に変動があれば眠りから覚めると信じているのに勝手に反応してしまう自分の体が憎い。

ぎゅっと目を閉じて眠ろうとすると、ほんのしたベッドの軋みでびくついてしまう。
グリムジョーが鼻で笑う気配があった。


「ごめん…」


謝ると、グリムジョーがやれやれとでもいうように首を振った。


「わかった。何も聞こえないようにしてやる」


そう言ったグリムジョーに「え、どうやって」と問う前に、ぐるんと寝返りをさせられた。
仰向けにされた私に降り注ぐキスの嵐。
さりげなく両手で耳を隠してくれるのは、きっとグリムジョーの眠りを邪魔するなという怒りと、安心しろという優しさからくるものなのだろうと思う。

キスはいつもより随分と深かった。

息継ぎも難しいくらいに深く、長く続いて、さっきまでよりも強い眠気に襲われた。

何も聞こえない。
グリムジョーの熱い唇と舌と掌以外には何も感じない。

世界がじんわりと滲んで眠りに引き込まれていく。

やっと吸えたと思った空気は、グリムジョーの香りでいっぱいだった。





おやすみも言えない
(グリムジョーもそのまま熟睡してしまったこと、全く知らなかった)
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