死神 | ナノ


其れがたる所以  


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眠っていた。
夢も見ないくらい深く眠っていたのに急に肩を掴まれて、がっくがっくと揺さぶられる。そりゃ当然ながら目も覚めるわけで。
けど目が覚めたところで揺さぶられていれば視界は定まらないわけで。上下前後に揺れる色だけの世界で、とりあえず少ない情報を得る。
金髪、香り、眼帯。


「て、テスラ…?」
「早く、早く起きろアラシ!」
「起きた、起きたよ。ばっちり起きた」
「遅いよおおおお!」
「ご、ごめんごめん、なに、どうしたの」
「これ! きょね、ばれ、ねっ、ひも!」

ずいっと目の前に差し出された掌には見覚えのあるネックレスが乗っていた。去年のバレンタインデーにテスラにプレゼントした、手作りのネックレスだった。ノイトラの従属官である証拠にと数字の5を円で囲ったもので、そのネックレスの紐が切れてしまっている。


「ありゃ、切れちゃったのか。虚との戦闘中?」


うんうん、と頷いてくる。
よく見れば足元にある入口にはノイトラが呆れたように立っていた。騒ぎに気付いたザエルアポロも寝室をひょっこり覗いてくる。
私の隣で寝ていたグリムジョーはまだ爆睡中。この人を起こすとアホみたいに機嫌が悪いので隣の部屋に移ったほうがよさそうだ。


「とりあえず、そっちに行こう」
「アラシごめんんん! 本当にすまないいい!」
「いいから、いいから、おいでなすって」


私の腰に抱きついてくるテスラを半ば強引に引き摺って寝室を出る。さらに廊下に出て、物置部屋に向かった。


「確か同じ紐が残ってたと思うから探してみるよ」
「うう…ネックレス…」
「気にしなくても大丈夫だって」
「アラシから貰ったのに…壊しちゃった…ノイトラ様に殺される…」
「そっちかい」


ごそごそと箪笥を改めていく。
確かこの辺に入れたような気がするんだけどなあ。何せ去年の話だから記憶が曖昧だ。

その間もずっとテスラが腰にまとわりついていた。


 * * *


眠っていた。
夢も見ないくらい深く眠っていたのに、ふと温もりのないシーツに気付いて目が覚めた。
隣にいるはずのアラシがいない。
わかっているのに体を起こして、もう一度、確かめる。誰もいないシーツを撫でて、やはりアラシの不在を確認する。
飯でも作りに行ったのだろうか。いや、霊圧は調理場とは違う場所から発せられていた。
乱れた髪をかき上げながら部屋を出ると、物置にしている一室が何やら騒がしい。
入口のドア枠に背を預けて立つノイトラの隣にはザエルアポロがいて、二人の間から覗くようにして室内に目を向けた。

アラシとテスラがぎゃーすか騒ぎながら物を散らかしている。床は踏み場もないほどに荒らされていて、二人は喚きながらもまだ引き出しをひっくり返していた。


「本当にここにあるのか!?」
「あるよ! この部屋に片付けた! …多分!」
「多分って何だよ!」
「多分は多分だよ!」
「なかったらどうしてくれるんだ!」
「切れたところ結んで使えばいいじゃんか!」
「そしたら本来の結び目と合計して二つも結び目が出来るじゃないか! ダサい!」
「…くっ…! 否めない! それはダサい!」


そのやりとりをしつつも手は忙しなく動いている。
ノイトラに問うと、ここまでの経緯を話してくれた。なるほど。
しばらく見つめていると、日頃から思っていた疑問をノイトラにぶつけた。


「なあ」
「あ?」
「テスラってアラシのこと、どう思ってんだろうな」


言うとザエルアポロとノイトラの視線が集まった。
ノイトラは頬をぽりぽりと掻きながらテスラを見る。
言い合いながら、部屋の隅と隅で背を合わせるようにして引き出しを物色する姿はどちらかといえば兄妹、いや姉弟。あるいは双子とでもいうべきか。そこに恋愛感情はないように見える。

けれど、テスラが素直になれるのはアラシの前だけなのじゃないかとも思う。
崇拝するノイトラには畏まり、俺やザエルアポロにはまだ警戒心が残り、本来の、何も着飾っていないテスラ自身を晒け出しているのはアラシの前だけなのじゃないかと。

いや、確かにアラシは人の警戒心をとく才能のようなものがある。人懐こいと思いきや、引き際や自分の程度みたいなものを理解していて、共にいて疲れない。過ごしやすい奴だ。だからテスラも素を出せるのかもしれない。

でも、そうでないかもしれない。


「わかんねえな。けど、仮にそうだったとしても、あいつは何も言わねえよ。だから俺も何も言わねえし、何もしてやらねえ」


テスラと常に時間を共有するノイトラが言うなら、そうなのだろうな。


「あったーーー! テスラ、ほら、あったよ!」


アラシの歓声で視線が二人へと吸い寄せられる。
ちょうど対角線上にいた二人は散乱する物を薙ぎ払って距離を縮める。新たな紐でネックレスを結んでやるとテスラは大いに喜んで、勢い余ってアラシの頬に──。


「…おい、てめえの従属官、いま俺の嫁にキスしたぞ」
「ああ。したな」
「見たよな?」
「見た。あ、もう一回した」
「やれやれ、見苦しいね。君達二人こそ素直になったらどうだい? あ、またキスした」





前言撤回
(何もしないと言いましたが、大いに割り込みます)
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