大口を開けて欠伸をすると、そこにメロンパンをぶっ込まれた。
危うく、おえ、と吐き出しそうになったのを必死に堪えて咀嚼する。
いつもよりふんだんに口内に満たされたパンを頬袋に寄せてグリムジョーをちらりと見た。
視線ががっつりぶつかる。
普段あまり目を合わさないこの男がどうして今日に限ってこんな風に見つめてくるのか理由が思い付かない。
最近はノイトラやテスラの話題も出していないし、テーブルの上にはグリムジョーが好物だと言っていたお菓子がまだ大量に山積みにされているし、怒られる要因を模索するも、とんと検討がつかない。
どちらも目を逸らすことなく、しばしその状況が続いた。
ソファに座るグリムジョーと、ソファを背もたれにして床に座る私との微妙な高低差がさらにグリムジョーの威圧感を助長する。
結局、気圧されて私から問う羽目になった。
「何でしょうか」
「ケーキ、好きか」
まるで噛み合わない返答に困りながらも、頷く。
先の一口がまだ飲み込めない。
「肉は」
「好きだよ」
「魚となら、どっちだ」
「んー、お肉かな」
「パンと米なら」
「パン」
手に持っているメロンパンを掲げて見せた。
「和と洋ならどっちだ」
「和と洋? 食べるなら…んー、どっちも? 部屋の話なら洋室に慣れたかなと」
グリムジョーはたいして興味もなさそうに「へえ」と答えた。
唐突な質問の嵐に疑問を持ちながら首を傾げる。
あれか?
恋人をよく知ろう的なあれか?
しかしこの唯我独尊男が今更どんな風が吹いてもそんなことは考えない気がする。
互いの誕生日でもないしクリスマスやバレンタイン等のいわゆるイベント毎は面倒くさがりの性格が一致してかあまりやらない主義であるから関係がない。
彼に対する影響力があるとすればオレンジ頭のあいつくらいのものだけれど会ったという話も最近は聞かない。
どうも腑に落ちない。
ようやく一口を胃に送り込んだ。
相も変わらず熱烈な視線を受け続けながら、とうとう私が折れて前を見据えることにした。
もう一口頬張る。
考えてみてもわからないのでもういいか。
と諦めようとしたとき、がり、と異物が歯に当たった。
ん?
パンまみれになった異物を口内から引っこ抜くと、そこには何の飾り気もない銀色の環っか。
照明の明かりを反射してきらびやかに輝いている。
そして内側には今日の日付が入っていた。
グリムジョーを振り仰ぐと、同じ環っかが嵌められた左手の薬指をわざわざ見せ付けてくる。
わなわなと口が震えた。
「結婚、しませんか」
僅かながらに頬を染めながら言ってのけたグリムジョーの超貴重映像と衝撃的な一言に頭が完全に思考を止めてしまう。
慌てて服の裾できゅっきゅっと指輪を拭いて自分の左手薬指に嵌めた。
もちろん破面の私達に婚姻の制度なんてないし、うわべだけのものかもしれないけれどあのグリムジョーがそう言ってくれただけで良かった。
それだけで良かった。
結婚式場を脅迫して予約しただのあとは料理を決めるだけだだのとたくさんの情報が入ってくるのだけど頭は既にパンクしている。
「クッサいやりかた…!」
「他に言い方ねえのか」
残ったメロンパンを片手にグリムジョーに抱き付けばしっかりと私を受け止めてくれるその逞しい腕。
頭を撫でてくれるその指に同じ輝きがあるのが堪らなく嬉しかった。
うわべだけでもいい。
それでもいい。
グリムジョーは本当に優しく嬉しそうに笑ってくれた。
少し進みましょう
(え、ちょっと待って。そしたら私、アラシ・ジャガージャックになるんでは)
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