死神 | ナノ


其れがたる所以  


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「うぜえ。ひたすらウゼエ」
「お、今度は何に怒ってるのかね?」


グリムジョーがソファに座ってテレビを見ながら、何やらぷんすかしている。
お菓子には炭酸ジュースが合うだろうと給湯室から二人分のグラスに注いで戻ってきた私は、グリムジョーの隣に座りつつ問い掛けた。


「何だ、この菓子。手にチョコが付く」
「あ、ポッ○ーね。○ッキーはチョコがコーティングされてないところを持って食べるんだよ。小袋の開けかたが逆さまなのだよ。こっちから開ければ、ほら、手で持っても大丈夫なところが現れるのであります」


どや。
と、袋を差し出すとグリムジョーは予想外に納得がいかない顔をしていた。


「んなことはわかってる」
「え、じゃあ何でぷんぷんしてんの?」
「そこ持って食べると最後の一口が味しねえ。やだ」
「やだって言われても」


時々、子供染みたことを言う夫である。あーだこーだ悩んで、とうとうグリムジョーはチョコが掛かっていないクッキーの部分を煙草のように口でくわえて、器用に手を使わずに食べ進め始めた。


「おお…器用なのか面倒くさがりなのか、よくわからん食べかただな…」
「最後の一口だぞ? 何で最後の最後で無味の部分を食わなきゃなんねえんだ、おかしいだろ。普通は最後に美味い部分を残しとくだろうが。どこで造ってやがんだ。ぶっ壊すぞ」


お菓子の製造元を調べようとしたので止めた。
グリムジョーは本気でやりそうだし、多分、やる。


「それテロ行為やからな。まあ今のグリムジョーの食べかたでも、行けるっちゃあ行けるか?」


試しに苺味のものを小袋から取り出す。手で待つ部分をくわえて、唇だけで食べ進めていく。
まあ出来なくはない。手も汚れない、味も最後までしっかりある。


「うん。これが一番いい方法なんじゃ――」


と、言い掛けたところでグリムジョーと目が合った。
この人がこういう妖しい目をするときは、だいたいひどいことが起きる前触れなので条件反射で鳥肌が立った。


「一番いい方法を思い付いた。これ、くわえてろ」


新たに取り出されたビターチョコ味の手で待つ部分をくわえさせられる。はたして食べればいいのか、何やらわからず指示を待っていると、反対側からグリムジョーが食べ始めた。
一口食べて「動くな」と牽制してくる。

二口、三口とどんどんと近付いてきて、おいおいまさか、と思っていると、そのまさかだった。

唇の先がほのかに触れた。

ぽきん、とお菓子が折れて、互いの咀嚼音がやけに大きく聞こえる。
グリムジョーの青空色の瞳に瞼が掛かったかと思うと、キスをされた。

一瞬だったけれど、実に恥ずかしいことをしたような気がして赤面する。


「昼間から何してんだ!」
「は? 菓子、食ってる」
「そこじゃないよ! 何で、今! だから、その、えっと!」
「あ? なんだよ」


にやにや。
グリムジョーが悪戯に笑っているところからして、わざととぼけているに違いなかった。
普段はツンツンしてるくせに、むしろ私もそのドライなグリムジョーの日常に慣れきってしまって、時々こうした夫婦らしいことをされると羞恥で体が熱くなる。


「くっ…敵わぬ…!」
「はー?」


聞こえねーけどー?
と、馬鹿にしてくるこやつ、どうしてくれよう。


「言わなきゃわかんねえけど?」
「だだだだだだから、き、き、きき、キスは恥ずかしいから…!」
「だってお前が食ったの味しねえじゃん」
「言うてもグリムジョーに口移ししてもらわなくたって自分で食べるから!」
「やってみろよ」


そして今度はグリムジョーが私の苺味のお菓子をくわえて見せた。
目を丸くしたのは私だ。


「え、そっち? 自分でって、そういう意味じゃなくてですね」
「早くしろよ」


ほれ。と、お菓子が上下に揺れる。
こいつ、遊んでやがる。

しかし暴君俺様男の毒牙に掛かってはこのまま逃げ切れるはずもないので、仕方なく意を決した。

とはいえグリムジョーとは体格差があって、届かない。


「ちょっと、屈んでほしいです」
「ん」


こういうときだけ素直に腰を曲げてくれる旦那様。
投げ出していた膝に肘をついて、挑戦的な目を向けてくる。

一口、食べる。
味なんかわからん。
でもそれだけでグリムジョーが満足してくれるはずもなく、ぽりぽり食べ進める。
近付いていく青空に私が写り込んで、こっちは恥ずかしくて仕方ないっていうのにグリムジョーは変わらず真っ直ぐ見つめてきて、耐えられなくなって目を閉じた。

最後の一口を食べて唇が掠れたとき、猛烈なスピードで距離を取った。


「ぶは…は、恥ずかしい…何だこれ、どうなってんだ…お酒飲んだっけ?」


今年一番の頑張りを見せた。
見せたはずでした。
なのに、まだグリムジョーは納得がいっていないようだ。

ばりぼり咀嚼しながらソファにふんぞり返っている。


「あー、味がしねえ」
「…はい?」
「あー、味がしねえなあ。つまんねえー。味しねー、あー、味しねー」
「…それは、つまり私から、しろと?」
「味がねえなあー」
「このどエス! 鬼畜!」
「あーじー」
「ぐぬぬぬ……ええい!」





あのお菓子の話
(キスしたらちゃんと抱き留めてくれるところ、グリムジョーらしいなって)
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