死神 | ナノ


其れがたる所以  


↑old[ 名前変換 ]

あいつをどうにかしろ。
現世で遊んでいたら、迎えに来てくれたノイトラにそう言われて、虚圏に戻って来た。


「ずっと寝室で寝てやがる。眠ってるわけじゃねえ。体を横にしてるだけで目は覚めてる」
「…ずっと?」
「ずっと。妙に落ち込んだ霊圧がそろそろうぜえから、何とかしろ」


隣を歩くノイトラは、私が作った服の中でも一番いい出来のものを着てくれていた。やはりよく似合っている。
ノイトラは私を寝室の前まで送ると「じゃあな」と去っていく。
彼は本当に大人だと思う。線引きが上手い。関わるべきところと、関わるべきではないところをしっかりと把握している。
観察力があるのだと思う。凄いなあと感心せずにはいられない。

寝室のドアを開けると、キングサイズのベッドにグリムジョーが俯せで寝ていた。枕に顔を埋めて、すんとも動かない。

私達が大喧嘩をして、数日が経った。

以来、口も聞いていなかったのだけどギンや石田に諭されて、もう怒っていても仕方ないかとも思い始めている。

ベッドの傍らに立って、呼ぶ。


「グリムジョー」


ぴくり、と屈強な身体が反応した。
青空色の髪は乱れて、今のグリムジョーの気持ちみたいに垂れ落ちている。
枕に散らばった真っ直ぐな髪は、普段の言動とは裏腹に柔らかく光を反射していた。


「グリムジョー。ご飯、食べようよ。お好み焼き作るから。好きな具材、入れていいから」


けれどグリムジョーは起き上がろうとはしなくて、右手をシーツに這わせて私の方へ移動させた。
私は何となく察して、その手を握った。
握り返してくるグリムジョーの力は、儚い。


「お好み焼き、いっぱい作るよ。イカ入れた奴とか、チーズとか、キムチとか明太子とか。一緒に食べよ。ね?」


グリムジョーの、手を握る力が強まった。

加えて、ぐぐぐぐっと引き寄せられて、耐えきれずにベッドに膝をつく。
かと思うと、グリムジョーの手が私の服を掴んだ。
今度は強い力だった。
ベッドに寝転がされて、抱きすくめられる。
けれど背後から抱き締められているせいでグリムジョーの顔は見えなかった。


「グリムジョー。もう、私、怒ってないよ」


グリムジョーが頷いた。
声も出さずに、頷いた。髪が揺れたので辛うじてわかったけれど、彼の性格を考えると柄にもない仕草ではある。

顔を見ようと首を巡らせようとしたけど、ついぞ髪しか見えなかった。

グリムジョーの香りがする。


「…どこ、行ってた」
「現世。あ、尸魂界にも」
「男の匂いがする」
「ギンと石田に会ってきた。気分転換」


グリムジョーは私の服をぎゅっと握って、苦しいくらいに抱いた。


「…何で」
「え?」
「何であいつらと会ってんだよ」
「グリムジョーと喧嘩したの初めてだったから、どうやって落ち着けばいいのかわからなくて」
「お前は俺のだろ」
「そうだよ」
「俺の女だろ」
「そうだよ」
「俺だけの女だろ」
「そうだよ」


このまま潰されてしまえたらいいのに。大好きなグリムジョーの腕に抱かれて、骨も粉々になるくらいに力強く抱き締められて、肋骨が肺にでも刺さって死んでしまえたらいいのに。
そんなに幸せな死に方があるだろうか。
愛する男の腕の中で、愛する男によって死ぬ。
それ以上の絶命など、あるのだろうか。

グリムジョーの囁くような「ごめん」に頷き返して、しばらくの間、どちらとも動かなかった。

沈黙を破ったのはグリムジョーの切実な願いだった。


「お前を拾ったのは俺だ」
「そうだよ」
「拾ってやる条件として、俺の命令には絶対に従うって約束した」
「うん。した」


また抱く力が強まる。
グリムジョーの体に私を取り込もうとしてるみたいだった。
何だか、生きている私をその手で確かめているような、そんな行動だった。


「なら、ずっと俺の嫁でいろよ」


その命令は、弱音だったのかもしれない。
どこにも行かないでくれと。
離れて行くなと。
俺が悪かったから、どうか許してくれと。
だから独りにしないでくれと。
お前が好きなのだと。愛してるのだと。
そういう全部を引っくるめた、不器用なグリムジョーの弱音だったのかもしれない。

私は気付いてしまったけれど、気付かなかったふりをした。


「ずっとグリムジョーの奥さんでいるよ」


返事をするのと同時に、私のお腹が空腹で盛大に鳴った。
ちょっとの沈黙があって、背後でグリムジョーが笑い始める。
けどすぐに止まった。
彼は怒るとき、先に笑うのだ。


「この状況で腹を鳴らすなんざ、いい度胸してんじゃねえかクソチビ。俺がどんな思いでこの数日間待ってたと思ってやがんだこの野郎。他の男の匂いぷんぷんさせやがって、おまけに腹減っただあ?」
「すみませんすみません、マジで今のは笑っちゃいけない場面で笑いが込み上げてくるアレ的な奴でして別に雰囲気をぶち壊そうなんて気はさらさらなくてですね。だ、だからお好み焼き食べようって誘ったじゃんか!」
「オム焼きそば乗った奴じゃねえとヤダ」
「何でまたそんな手間の掛かる奴を!」
「オム焼きそば乗った奴じゃねえとヤダ」
「焼きそば買ってきてないよ!」
「オム焼きそば乗った奴じゃねえとヤダ」
「だあ! わかったよ! 今から買ってくるから、ちょっと待っ――」


起き上がった私をまたグリムジョーの手が拐った。
ぼすんとベッドに引き戻されて、再びグリムジョーの腕の中にすっぽりと嵌まる。


「もう少し、このままでいろ」
「え、あ、うん、わかった」


何だか甘い空気が漂う。
けれど、そこでまた鳴ってしまうのが私の腹。


「おいテメェ…マジでふざけんなよ」
「ごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさい」





仲直り
(結局すぐに買いに行きました)
(1/1)
[*前] | [次#]
list haco top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -