ぱしゅん。
ぱしゅん。と、ラケットの風を切る音が交互に続く。それと、ガットに羽根がぶつかる小さな破裂に似た音。他には何の音も聞こえない。
「久しぶりに訪ねて来たと思ったら、いきなりバドミントンをやろうなんて突拍子もないこと言い出して。何があったんだい?」
「ちょっと気晴らし。てか私、上達したっしょ? 上手くない?」
「前がひどすぎただけじゃないかな」
「ぐうの音も出ない正論」
ぱしゅん。
ぱしゅん。
公立の体育館を借りて、夜遅くに黙々とバドミントンのラリーを続けているのはなかなかどうしてシュールである。
けどアラシさんが集中しているので、もう辞めようとは言い出せずにいた。
「石田はさ」
「うん?」
「師匠が死んだとき、どうやって乗り越えた?」
こつん。と、情けない音がして、羽根が僕の足下に落ちる。
アラシさんは「あちゃー。連続30回でストップですな」と笑っていた。
「誰か死んだのか」
「まあね。石田は師匠が死んだ原因を許せた?」
「許せないよ」
「今も?」
「今も」
「じゃあ、もし私が師匠を殺した犯人だったらどうする?」
目がすっと細くなるのを感じた。
彼女の真意を見透かそうとするのに、まるでわからない。
「どうして殺したのかを聞く」
「理由が共感出来たら?」
「難しいけど」
そうだな。
言い淀んでいても、アラシさんは僕の回答をじっと待っている。
羽根をラケットで掬い上げて、再びラリーを始めた。
「僕がアラシさんと離れられるかによる」
「…どういうこと?」
「どうしても許せなくて、一緒にいたくなくて、離れられるならそうすればいい。でも、アラシさんなしでは生きられないから、僕はアラシさんと生きる方を選ぶと思う」
こつん。
今度はアラシさんの足下に羽根が落ちた。
ころころと何周かして、静止する。
アラシさんは真っ直ぐと僕を窺い見ていた。
「例え話、だよね?」
言ってしまおうか。
本心だと。本音であると。
「当然だろ。他に何があるっていうんだ」
「そうだよね。ごめんごめん」
アラシさんはラケットで羽根を掬おうとして、失敗してそのまま僕の方へ羽根が飛んで来た。
手で掴み取る。
「…下手くそ」
「ぐうの音!」
そして僕らは、もうしばらく羽根を飛ばし合った。
なんちゃって
(告白、のつもり)
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